迫力ある瀧をダイナミックに描く 『那智瀧図』
国宝 那智瀧図 1幅 鎌倉時代 13~14世紀 根津美術館蔵
和歌山県、那智勝浦町にある那智の滝は、日光の華厳の滝や、茨城県の袋田の滝とともに、日本三名瀑とされている落差133mの巨大な滝。そのダイナミックさから、滝そものものが神様の化身であるとされ、現在に至るまで多くの参拝客が参拝に訪れており、ユネスコの世界遺産『紀伊山地の霊場と参詣道』の一部としても登録されています。『那智瀧図』は、その御神体として崇められていた滝の一つ「一の滝」を描いたものです。
なぜ、実際にこの絵を見ていただきたいのか。実はこの『那智瀧図』、縦は160.7cm 、横は58.8cmと、通常の我々が日本画と聞いて想像する「和室の床の間に掛けられている掛け軸の絵」などと比べると、非常に大きいんです。初めてこの絵を目にする方は展示室に足を踏み入れて、まずその大きさにびっくりするはず。そして、上から下まで、ほぼ一直線に落ちていく滝のダイナミックさに圧倒されるはず。この絵を描いた人がどなたなのかはわかっていませんが、実際の那智の滝の壮大さをなんとかして表現したかったのでしょう。
迫力に驚きつつ、近づいて細部を見ると、はねる水しぶきや、うねる濁流など、ダイナミックでありながら、描写がとても緻密なことに気付きます。加えて画面上部に日輪があったり、下部には小さな卒塔婆や仏舎利、拝殿など(仏教の大切なシンボルと、神社を同じ画面に配置することで垂迹思想を示しています)、非常に細かくいろいろなことが描かれているんですね。書籍やインターネットなどの縮小された画像ではわからないところが多いこの『那智瀧図』、一度実物を鑑賞していただきたいです。