男の腕時計/スイスの老舗高級ブランド

時計のケースとフランク・ミュラー

腕時計のケースの形は大半が丸形。角形や「トノウ」と呼ばれる独特の樽形などもある。フランク・ミュラーは、こうした形をデザインに取り込んで斬新な美学を確立したことで有名。そのルーツは20世紀はじめに遡る。

執筆者:菅原 茂

腕時計の始まりは、丸形より角形

マスタースクエア
腕時計の歴史を紐解くと、角形ケースが現在の腕時計のスタイルを形作ったことがわかる。写真はフランク・ミュラー「マスタースクエア」。ホワイトゴールド、自動巻き、168万円

諸説はあるが、時計の歴史に現在の「腕時計」の原型が登場するのは、20世紀のはじめとされている。それまでは、個人が携帯する時計といえば、ポケットに収納して持ち歩く懐中時計を指していた。女性用のジュエリー・ウォッチを若干の例外とすれば、そもそも腕に時計を着ける習慣がなかった。

では、なぜ腕に着ける時計が必要になったのだろうか。懐中時計だと、時刻を確認するたびにポケットから取り出さなくてはならない。戦場での行動や、当時急速に発達を遂げる飛行機や自動車の操縦には不便だ。また、人々の移動や日常行動が活発になり、ライフスタイルそのものが大きく変化したことも影響があるだろう。腕時計は実用的な上、斬新なファッションとしても脚光を浴びたという説さえある。

時計メーカーはまず、小型の懐中時計にベルトを取り付けて、腕に着けられるように工夫した。丸いケースにベルトが付いた、現在の腕時計に近いイメージだ。しかし、実際に実用品として普及したデザインには、角形ケースが多かったという。実際にミュージアムピースやアンティークなどを見ると、1910年代から30年代にかけては、角形ケースが目立つ。たしかに丸形より手首によくフィットするし、デザインの点でも、ケースとベルトの連続性が保たれ、見た目がエレガントである。問題は腕時計のケースに収納できる小型ムーブメントの開発だったが、それもクリアされると製品化にますます拍車がかかった。

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