E550と明確に違う、どこかイタリア車のような享楽性さえある
トルクコンバーターに代わり湿式多板クラッチを採用したAMGスピードシフトMCTを搭載。ダンパー減衰力は3段階、シフトプログラムは4段階に変更可能。オプション(93万円)で、専用チューニングサスペンションなどを備えるパフォーマンスパッケージを用意する(写真は非装着車)。0-100km/h加速は4.5秒 |
極論を言うと、Eクラスとはまるで違う性格、まるで別のクルマだと、乗って思ったからだ。特に同じくV8エンジンを積むノーマルラインナップの最高峰E550との違いが明確だ。
とにかく、E63の方が高速域で“やんちゃ”である。E550の、もはや路面と同化した巌のような安定感をE63に求めてはいけない。もちろん、真っすぐ走らないということではない。E550がどこかドライバーである人間を信用しない機械特有の冷徹な頑固さでひたすら前へ進もうとするのに対して、E63はちゃんとドライバーの意思を汲み取ろうとしてくれる。どこかイタリア車のような享楽性さえある。掌のわずかな動きにもダイレクトに反応してくれそうな手応えが常にある。
ベースモデルがステアリングにATセレクターを配するのに対し、こちらはフロアに設置。その周囲にドライビングモード切り替えスイッチを集中的に配置している(AMGドライビングユニットシステム)本革を使ったAMGスポーツシートやスポーツステアリングなどの専用装備も多数採用 |
ミッションを7速スピードシフトMCTとしたことも大きいと思う。これはSL63AMGと同じドライブトレーンということで、それだけE63のスポーツ性が高い、もしくはそう願ったということの証だ。ボクはひょっとすると、コンパクトで面白いハイパワーセダンだったC63AMGよりも、スポーツ性では勝っているんじゃないか、とさえ思っている。
特に、パフォーマンスパッケージ仕様がいい。ほとんどスポーツカーである。乗り味には、SLSとの共通点さえ見つかる。昔のモンスター時代('80年代から'90年代まで)のハイパワーAMGエンジンにはレーシングカー的思想を感じることができたが、このパフォーマンスパッケージ仕様ではエンジンのみならずシャシーのセッティングに至るまでモダンなレーシングスポーツの息吹を楽しむことができたのだった。
確かにAMGは、メルセデスなしには成立しない。ベンツというクルマを狂ったように“改造”するからこその怪しいまでの魅力がAMGの原動力だ。けれども、ベンツ云々ではなく、AMGとして語ることはできるはずだ。器と素材が同じでも、料理人が違えば別の料理になりえる。AMGの目指すところは、そこなのだろう。