3シリーズのスペシャルモデル
3シリーズクーペに対し数々の専用装備が与えられる。写真のボディカラーは「インテルラゴス・ブルー」 |
「駆け抜ける悦び」を標榜するBMWの中でも、M3というモデルは特別の存在です。M3はもともとモータースポーツに参戦するためのホモロゲーションモデルとしてE30時代に登場しました。以来3シリーズの高性能バージョンとしてラインアップされ、現行モデルで4代目となります。BMWというと「シルキーシックス」と評される直列6気筒エンジンのイメージが強いのですが、このE92型M3にはV8エンジンが搭載されています。
筆者がM3の約1年前に登場した335iに試乗した際、3L直6パラレルツインターボエンジンの乗り味にいたく感激したものでした。そして当時、「(やがて出るM3で)BMWはこれ以上どうするつもりなんだろう?」と思ったものですが、その答えを知ることができました。
420馬力の4L V8エンジンを搭載
官能的な旋律を奏でる新開発4L V8エンジン。最高回転数8400rpmを誇る |
せっかくM3が題材なので、まず走りに直接関する部分から触れていきましょう。「S65B40A」というコードネームが与えられた新開発の4L V8エンジンは、最高出力420ps/8300rpm、最大トルク40.8kgm/3900rpmを発揮します。メーターを見ると、タコメーターは7800rpmからイエローで、レッドゾーンはなんと8300rpmから。その隣りのスピードメーターが330km/hまで刻まれているのもダテではなさそう。0-100km/h加速は公表値で4.8秒という高性能ぶりです。
フィーリングは、Mモデルらしく高回転型で、どこまでも回っていくかようなスムーズな吹け上がりを示します。高回転型といっても、排気量が大きく低回転域でも十分なトルクを発揮してくれるので、扱いにくさをまったく感じません。そして、サウンドが期待どおり素晴らしい! トルクの盛り上がりとともに、パーフェクトに調律された、よどみないV8サウンドが高まっていきます。これを味わいたいがために、ついつい低いギアのままアクセルを踏み込むことが増えてしまいます……。
335iと比べると、それはそれで非常に完成度の高いエンジンで、感覚的な速さからすると、ターボの付く335iのほうが自乗的な盛り上がり感があり、「速い!」と直感させる味があります。しかし、重厚感あるサウンド、大排気量自然吸気エンジンならではのリニアな加速フィールなど、そこにある動的質感は、M3がはるかに上回ります。
なお、このエンジンにはBMW独自の「バルブトロニック」は採用されていません。おそらく超高回転域に対応できていないというのが理由でしょう。ただし、Mモデルらしく、レーシングエンジンように各気筒に独立した電子制御スロットルにより、高回転域にいたるまでのハイレスポンスを実現しているのです。
高いスタビリティとアジリティ
鍛造19インチダブルスポークホイール「260M」が標準装備される。その奥に覗く高性能ドリルド・コンパウンド・ディスクブレーキは、100km/hの走行状態から35m以内&2.6秒で車両を停止させる |
先代よりもひとまわりボディが大きくなっていますが、徹底した軽量化により、車両重量は先代E46 M3の80kg増となる1630kgに抑えられています。また、3シリーズクーペに対しても、サスペンションが専用設計とされ、完璧なスタビリティ(=安定性)を追求したとのこと。さらに、フロア下などにボディ補強が施されています。
独自のMサーボトロニック・パワーステアリングは、少し前のBMW車のアクティブステアにあったような過敏すぎる違和感もなく、アジリティ(=俊敏性)という、いい部分だけをクローズアップして味わわせてくれる印象。非常に剛性が高く、ステアリングは4つのタイヤそれぞれがどのように路面と接地しているのか伝えてくれます。その感覚は、すでに高く評価されている3シリーズクーペよりも一段高いところにあります。
非常に高性能ながら、あまりにも安定しているので、これを「刺激がなくて面白味に欠ける」という人もいるかもしれません。しかし筆者は、高性能車がスパルタンでなければいけないというのは古い価値観ではないかと感じています。これこそ現代のハイパフォーマンスモデルのあるべき姿でしょう。
反面、M3としてはM5に近くなりすぎたようにも感じられなくもありません。あくまで3シリーズの頂点というのであれば、もっと軽くコンパクトで、身のこなしも軽くあって欲しい気もします。
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