そして存在としては直感的なのだが、実際の作りでは意外に理屈の部分が多いというのが面白い。特に後席ではそれが顕著で、この手のモデルとしては珍しい分割可倒式のシートを備えていたり、ダブルフォールディング機構まで与えられている。だからトランクから後席分までを荷室として使える。それに後席のレッグルームの広さがウリで、VWニュービートル・カブリオレよりも約250mm広い1039mmを確保したと高らかに謳われていた。これが理屈じゃないクルマの理詰めな部分だ。
前席と後席の間に位置するロールオーバーバーは、「スポーツバー」と呼ばれるもので、ボディ剛性確保の他、空力特性まで考え、後席乗員への風の巻き込みを抑制する役割を持っている。これに加えて幌は3層構造とすることで高い静粛性も実現した。操作方法はもちろん電動式で、フロント部分のロックを手動で解除した後にボタン操作ひとつでオープンとなる仕組みを持っている。
PTクルーザーでユニークなのは、前席と後席の間にあるスポーツバーが、通常のロールバーを持つカブリオのようにBピラーとはならないことだ。このバーは、前後のサイドガラスをあげるとその内側に存在する形となる。これはいかにも気密性が高そうだし風きり音も低減できそうだから、これもおそらく幌を閉じた時の静粛性の高さにつながっているのだと考えられるのだ。
スタイリングは4ドアであるセダンに比べると、かなりクールな印象だ。オープン化と同時に2ドアとなり、全高で62mm低くなり、フロントガラスの角度も寝るためにチョップド・トップを思わせる。そして幌を開けると、非常に存在感の強いアピアランスをそこら中に見せつけるのだ。
オープン化による重量増に対応するためだろう、搭載エンジンはセダンの2.0Lに代わり2.4Lの直4DOHCが採用された。
オートスティック(MTモード)付き4ATがこれに組み合わせられ、150ps/220Nmを発生する。
オープン化による重量増を感じさせない動力性能を実現しているが、速い、といえるほどではない。セダンに比べ、少しだけゆとりが増した、という表現が相応しいだろう。
試乗車は当然サスペンションも欧州仕様となるが、聞けばこれは日本仕様とほぼ同じだという。印象はというと、欧州の道でも不満ないハンドリングを提供してくれるものだった。スポーティさやダイレクト感、というようなものは存在しないが、非常に素直で忠実な印象だ。試乗コースは街中、高速、ワインディングと実に様々なシチュエーションが試せたが、どの場所でも平均的な欧州車のレベルを確保していたのだった。
気になる日本への導入は夏前といわれていたが、もう少し早まりそうだ。価格もライバルたちに比べると、身近なものとされるらしい。好き嫌いは決定的に分かれるスタイリングだとは思うが、それだからこそPTには強烈が個性があるのだといえる。こういう風にメーカー自身の想いが強く表れたクルマが日本にも欲しいところだ。