3列シートにハイト系パッケージング、これならばミニバンに分類するのが相当。そのとおり、ここでもミニバンとして扱っているし、大体の自動車専門誌も同様である。しかし、トヨタのオフィシャルサイトにおけるスパシオの分類は2BOXなのだ。ステーションワゴンでもない。形式ではミニバン系列であっても、スパシオがミニバンユーザーのために開発されたクルマでないことをトヨタ自身が断言しているわけだ。
当サイトではミニバンをステーションワゴン型と1BOX型に分類することが多い。ひとつはボディ形状によるが、重要なのは適応ユーザーニーズの違いである。サードシートの使用頻度が高いあるいはキャビンの多用途性を重視する用途を対象にしたのが1BOX型であり、サードシートの使用頻度が少ない、基本用途が通常のステーションワゴンとあまり変わらないのがステーションワゴン型である。
1BOX型は古くからある1BOXワゴンを発展、ステーションワゴン型は荷室のジャンプシートを備えて7名もしくはそれ以上の定員を実現したステーションワゴンを発展させたわけであり、走りや使い勝手が向上しても基本的な適応用途に大きな変化はないなろう。
ならばスパシオは2BOX型ミニバンとなる。少々強引な言い方かもしれないが、カローラ.フィールダー(ワゴン)よりも全長が150mm短く、全高が100mm高いパッケージングを考えれば、あながち的外れな表現でもないだろう。
2BOXを掲げて一体何を適応用途とするか。ここが大きな問題だ。一昔前なら2BOX車はタウン&パーソナルユース向けのクルマがほとんどだった。スパシオの寸法ならばタウンユースにも手頃だが、パーソナルユースは狙っていない。明らかにファミリーユース対象である。前記事でも述べたとおり、走りの志向も明らかに短距離から長距離まで不足なくこなす汎用型。正しくファミリーカーのための走りである。
しかし、それにしても狭いサードシートである。膝を抱えたような着座姿勢も窮屈。大型TVの梱包用段ボール箱に閉じ籠もっているようである。その程度なので子供でも少々しんどい。大人ならば30分も持たないだろうし、小柄な子供でも1時間毎に休憩を採ってあげなければ可哀想。
スパシオのサードシートにとって重要なのは居住スペースとして形式の確保、誤解を恐れずに言えばプラス2名分の乗車定員なのである。スパシオを3列シートのミニバンとして用いた時に、その適応用途はタウンカーになってしまう。「ちょっとそこまでならば、窮屈だけどスパシオ1台で出掛けようよ」なのだ。これが高速道路を使って1時間以上走るとなれば、「高くつくけど2台出そうよ」となる。もちろん、しっかりとしたミニバンならば7名乗車の長距離でも不足はないだろうが、今度は街乗りが気軽ではなく、非経済的でもある。
ここの隙間にはまってスパシオなのだ。遠出をする時はファミリーユース向けのコンパクトワゴンであり、ふだんは気軽なミニバン機能も備えたタウンカー。このタウンユースへの適性が2BOXたる由縁である。
余談ながらラインオプションのナビにはブラインドコーナーモニターが設定されている。これがタウンユースではすこぶる便利である。見通しの悪い交差点でも鼻先を少し出せば、交差する道路の状況がモニターに映し出される。路面ぎりぎりを通る人や自転車もしっかりと確認できる。こういった日常の便利性を高める装備もスパシオのタウンカーとしての資質のひとつである。
とはいえミニバンをターゲットとした人には勧められない。ミニバンらしい多用途性は持ち合わせていないのだ。しかし、コンパクトワゴンやファミリー&タウンユース兼用型2BOX車を考えているならば、スパシオはちょっと気に留めたほうがいい。2BOXの標準サイズよりも少し大きくなるが、それ以上に便利に使えるはず。ワゴンや2BOX車では気付かなかった使い方も見えてくるかも知れない。
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