
ミニバンの魅力のひとつに高いアイポイントがある。見晴らしがよくなれば、同乗者は風景が楽しめるし、ドライバーは遠方を確認しやすくなる。付け加えれば速度感も低下する。ここに着目してミニバンを選ぶドライバーにとって新型となったオデッセイは理解し難い存在だろう。

もうひとつは運動性の向上である。これは全高というよりも重心高の問題なのだが、ただ屋根を低くしたのではなく、従来のオデッセイと同等の室内高を維持したまま、フロア毎低くしているので低重心化とキャビンユーティリティ維持の一石二鳥が適っている。
重心と運動性について、まず基本的な考え方を知っておいたほうがいいだろう。高い重心は安定性で大きなハンデになる。例えばボディの動きを抑えるためにサスストロークを引き締めると、コーナリングなどで前後や左右のタイヤに掛かる負荷の変化が大きくなる。極端なたとえ話をすれば、大きな横Gを受ければ相撲取りが四股を踏んでいるような荷重移動が起こる。加減速の前後の荷重変化でも同じことが起こる。さらに強く荷重がかかっているタイヤの接地状態によって、運動性やコントロール性が影響されやすく、その変化は車体挙動にも現れる。コーナリング中ならば内輪、減速中ならば後輪がうまく働いていないためだ。

乗り心地しても、着座位置が高いと揺れを大きく感じる。これも棒に喩えるならば、手許が地面、オモリの位置が頭部となり、棒を振る角度が同じでも、手許から離れた位置にオモリを置いたほうが左右に大きく揺れるのと同じ。ついでにいえば、車体前後の傾き、つまりピッチ変化は頭の位置でみれば前後に加減速しているのと同じ結果になる。ピッチングが大きく恒常的に起きるクルマでは、乗員は常にピッチングの周期で加減速してような状態になる。こんな状況だとクルマに弱い人ならば即乗り物酔いを起こしてしまう。

ということで新型オデッセイの低重心効果だが。発表前にプロトタイプを試乗させて貰った時の印象はあまりよくなかった。アブソルートは硬すぎて、路面をしなやかに路面をトレースできていない。標準サス車は柔らかすぎて車体挙動を抑えきれない。グレードキャラクターは明快になるが、やりすぎてちょうどいいところがない、というのが正直な印象だ。
ところが、市販モデルは違っていた。単純な硬軟の印象でいえばアブソルートは柔らかく、標準サス車は引き締まっていた。双方歩み寄りながら、程いいバランスで操安性重視と快適性重視の棲み分けを行っている感じなのだ。
ハンドリングで両車に共通するのは、操舵初期から緩みのない回頭性がある。中立から僅かに舵を入れるだけで、確実に向きが変わっていく。鼻先の重さを感じさせない。通常速度域でのコントロール感覚は大体似たようなものだが、横Gが大きくなるにつれて標準サス車は反応がダルになり、鼻先あるいは車体の重さを感じさせる操縦感覚になる。ところが、アブソルートは揺るみない操縦感覚をコーナリング限界近い領域まで維持する。踏ん張りが違うとか切れ味鋭い操縦性を示した。イケイケでコーナーを攻め込めたりする。

目一杯荷重をかける、あるいは急激に荷重をかけるような走り方でのコントロール性、挙動安定共にミニバンではピカイチ、乗用車全般で比較してもトップクラスである。ただ、正直に反応しすぎる。素早い操舵では車体方向変化が唐突になり、微妙な揺れ戻しが起こる。これはサスの問題だけでなく、シートのホールド性も影響し、掛かる力の変化でシート上で身体が揺れてしまうのも影響している。
これまでのホンダ車と比較すると中庸域での車体の動きの連続性が改善されているが、まだ収束よりも反応のよさを重視されている。そこがスポーティと言われればそれまでだが、姿勢変化の軽快感と切れ味を意識しないで、深みと安心感をもたらす穏やかな安定したライントレース性を優先して欲しかった。長時間のハイアベレージ走行を前提にすれば、機敏さよりも落ち着きと確実性を高めべきだろう。
アブソルートと比較すると、標準サス車は操舵初期と大きな横Gを受けた時の操縦感覚のギャップが少々大きめだが、ハイペースのドライブ程度のアベレージでワインディングロードを走った時に穏やかさと素直さの案配がいい。素早い切り返し、操舵や路面うねり通過後の揺れ返しは気になるものの、乗り心地とのバランスを考えれば上々の出来である。気軽に走って、心地よく過ごせるミニバンに求める人にはちょうどいい。
ワインディング志向が強いのがちょっと気になるが、ミニバンでスポーティを求めると硬くしてしまう従来のサスチューンの傾向とは明らかに異なる。走り好きのドライバーだけでなく、ふつうのドライバーに向けてこの長所を積極的にアピールすれば、ミニバンの走りに対する意識も変わるだろう。その起爆剤としてオデッセイには大いに期待している。