これはマニアでもなければオタクでもないクルマに興味のある人向けのメカや理屈の解説です。「ちょっと考えると変、ちょっと考えるすぐ分かる」を目標に、大して実践的価値のないことをつらつらと述べてみます。題して「ハードコア素人のための理屈指南」。その第一回として、トヨタのハイブリッド・システムのニッケル水素電池を扱ってみましたた。

先日発表された新型プリウス。パワートレーンはTHSからTHS IIに進化して、昇減圧回路を用いて駆動発電系統を500V(ボルト)にしています。この辺りの話は以前述べていますが、バッテリーも以前とは違っています。エネルギー密度が35%もアップしました。ただし、高密度化は軽量小型化に回され、バッテリー容量そのものは従来と同じ6.5Ah(アンペア・アワー)です。

軽量小型化が必須なのは良く理解できますが、興味深いのはバッテリーパックの電圧(V、ボルト)が274Vから202Vに下がっていることです。

バッテリーパックは1.2Vの小さな電池(セル)を沢山繋いで使っています。従来のプリウスでは6本の電池を繋いだ7.2Vのモジュール(6本組みバッテリー)を直列に38個(228セル)使っていましたが、新型では28個(168セル)になりました。(ちなみにセル数減少は大幅な軽量化とコストダウンに役立っています)

昇圧回路で500Vにするんだからバッテリーは202Vでもいい?。確かに間違いではありませんが、昇圧しても電圧と電流をかけた放出エネルギー量(電力/W、ワット)は同じです。つまり500Vで10A(アンペア)放電を得るためには、そのエネルギーの源となるバッテリーが202Vならば約25Aで、274Vならば約18Aで放電することになります。500V×10A=5KW(キロ・ワット)=202V×24.75A=274V×18.24Aなのです。

バッテリー容量(Ah)は同じ6.5Ahです。もし、6.5Ahを24.75Aで放電すると約16分で空になりますが、18.24A放電ならば21分ちょっと使えます。同じ出力を求めると202Vは274Vよりも3割近く早く減るのです。したがって、バッテリー電圧を低くしてしまうと、昇圧回路で電圧を高くしても使える時間が短くなります。

電圧が異なると分かりにくいので、電力量のWh(ワット・アワー)で新旧のバッテリーを比較すると次のようになります。従来車は274V×6.5Ah=1.78KWh(キロ・ワット・アワー)、新型車は202V×6.5Ah=1.31KWh。同じ6.5Ahでも、電圧が約26%下がっているため電力量も約26%低下します。

増して、新型プリウスは従来よりもパワーアップ、つまり大きなワット数でも使うわけですから、バッテリー走行時間は短縮されて当然なのです。ところが、実際はバッテリー走行でも高出力で長時間走れるようになっています。妙な話ですが、実は同じ6.5Ahの容量でも、使える容量が違っているのです。

充電して何回も使える二次電池でも、充放電を繰り返すと性能が低下して寿命がきます。電極の化学変化などが原因のようですが、具体的な寿命を短くする要因としては大電流の充放電や過充電や過放電があります。寿命を長くするにはバッテリーに負担の掛からない領域で使うことが重要になります。逆に負担に強ければ、寿命を延ばしながらもっと多くの電流や容量を使えます。

新型プリウスのバッテリーは軽量小型化しただけでなく、充放電電流や過充電過放電の耐久性も向上しています。その結果、電池容量は同じでも使える容量が増えたのです。

しかし、それでも実際に使用している容量は全容量の3~4割程度と考えられます。例えば、試乗時に完全電動走行のEV走行モードを試してみましたが、55km/hでの走行距離は2.2kmでした。時間にして3分弱です。詳しい資料がないので推測値になりますが、この時の使用量は容量の2~3割、多く見積もっても4割は超えていないでしょう。

この推測のポイントは「C」値にあります。「C」はCapacity(容量)の頭文字ですが、バッテリーの性能を説明する時には放電レートを表します。C値はバッテリーの全容量を1時間で使い切る電流値を基準にしています。6.5Ahの容量ならば、6.5Aが1C放電になります。3分で全容量を使い切ると20C放電になってしまいます。6.5Ahのバッテリーならば130Aもの電流値です。

202Vで130Aならば電力は約26KW。50KWの駆動用モーターを使っていれば、そのくらいの電流値を流しても良さそうですが、20Cの放電で常用できる量産ニッケル水素電池はありません。新型プリウスでも最大放電値は10Cです。しかもゼロ・コンマ数秒での使用のみです。実際に駆動に用いるのは3~4Cが最大と考えられます。

3Cの電流値は約20Aです。20Aで3分間電流を流すと1Ah消費します。つまり、6.5Ahの15%ちょっとになります。仮に満充電と完全放電(空っぽ)から、それぞれ20%の安全率を取った常用容量は60%になりますが、それでも15%の使用ならば余裕はたっぷりあります。常用容量に対しても4割程度の負担ですから、EV走行モードでもバッテリーの負担は大して大きくありません。

大負荷加速時になればモーターとバッテリーはもっと酷使されます。連続登坂や全開で長々と加速している時こそ最もバッテリーに厳しいのですが、エンジンによる発電電力も加わえることで負担を小さくしていると考えられます。

でも、この話はちょっと変な感じもします。エンジンのパワーが発電にも使われれば、エンジンが直接駆動するためのパワーは減少します。エネルギー量でいえば同じ、もしくは変換過程を経た分だけ目減りするはずです。

この辺の不可思議さはモーターとエンジンの特性の違いにあります。モーターは停止/低回転域で際立って大きなトルクを発生するので、そのトルクを活かして低速域の加速を大きく向上できます。いわば発電機とモーターを使ってCVT(連続変速装置)のような効果を得ているのです。ちなみにプリウス用駆動モーターの最大トルクは回転数が0から1200rpmの間で400N・m(約40.8kg-m)。これは4000cc以上のガソリンエンジンに匹敵します。

ただし、モーターは高回転になるとトルクが減少し、同時に効率も低下します。低速域では大活躍のモーターも、高速域ではエンジンの補佐程度にしか使われないのはこのためです。いずれにしても、バッテリーに極端に大きな負荷をかけないように制御されています。

新型になってプリウスは燃費も動力性能も向上しました。エンジン本体や発電機/モーターの改良なども利いていますが、その大きな要因のひとつがバッテリーの耐久性向上にあるのは間違いありません。耐久性が高いから、多くの電力を使ってもクルマに寿命に見合ったバッテリー寿命が得られるわけです。

余談ですが。
解説する身としては不慣れな電気の話、しかも詳細資料もない状態での手探り状態。「読まされる身にもなれ」とか「電気の素人はこれだから困る」なんて声も聞こえてきそうです。生兵法で思わぬ恥をかいているのかもしれません。自分なりに分かりやすくするために、電気関連の専門家からすれば変な単語を使っているかもしれません。その辺りは、どうかお目こぼしのほどを。また、今後の記事を書く時に参考にさせて頂きたいので、電気/電池の専門家の方からアドバイスを頂戴できたならば幸いです。
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