不景気で縮小された若手育成プログラム
小林可夢偉はF1レギュラーにまで登り詰めたのに、なぜ自らプロモーションをやったり、影の努力をせざるを得ないのでしょう? 若手レーサー達を紹介する前に、その背景を解説しておきましょう。ちょうど10年程前、「人材育成」の大義名分のもとに自動車メーカーが資金を投入し、若手レーサーをバックアップするシステムができあがりました。特にトヨタ、ホンダといったF1に参戦していたメーカーが作ったシステムは幼少期のレーシングカートから、フォーミュラカーのレーシングスクール受講、海外レース参戦を経て、F1にまで登り詰めるまでをバックアップする、というかなり壮大なものでした。
多くの少年、少女たちがレーシングカートにチャレンジし、F1レーサーを目指すというストーリーが出来上がっていたのですが、リーマンショック以降は自動車メーカーが相次いでF1から撤退し、育成プログラムのバックアップも縮小を余儀なくされてしまったのです。
常に崖っぷちから這い上がった、塚越広大
国内レースのフォーミュラニッポン、SUPER GTで活躍する塚越広大(つかこし・こうだい/23歳)はホンダが育成するドライバーで、小林可夢偉とは同い年。小林とはカート時代からのライバルで、F1の舞台でも共に戦うだろうと予想されていました。塚越広大 【写真提供:MOBILITYLAND 】 |
塚越は鈴鹿サーキットのレーシングスクールを首席で卒業。育成フォーミュラカーレースの「フォーミュラドリーム」では全戦優勝という前人未到の衝撃的なデビューを果たしました。2007年にはF1ドライバーへの登竜門と呼ばれるF3の世界一決定戦で2位表彰台を獲得。その後はヨーロッパでF3を戦い、存在感を海外の関係者にも示しました。
F1まであと一歩というタイミングでホンダがF1活動から撤退し、塚越も国内レースへと戦いの舞台をシフトすることになり、現在は最高峰のフォーミュラニッポン、SUPER GTを舞台に戦っています。
フォーミュラニッポンで走る塚越広大 【写真提供:MOBILITYLAND 】 |
塚越の魅力は強い「ハングリー精神」ではないかと思います。彼のキャリアを先のように簡潔に書けば、恵まれた環境の中でトントン拍子で上がってきたかのようにも思えますが、実際には常にチャンピオンまたは優勝してスカラシップを得て翌年につなげる作業の連続で、レーシングカートの時代から彼は常に良い成績を残せなければ翌年のレース活動はできないという「崖っぷち」の状態に居たのです。
そんなハングリー精神あふれる走りはトップカテゴリーで走る今も健在。SUPER GTの第5戦ではファイナルラップで大逆転優勝を飾りましたし、最後まで諦めない姿勢を見せ続けています。まだ23歳と国内レース界では若い塚越ですが、ひとたびコクピットにおさまりレースモードに入れば、走りの「存在感」でファンを魅了してくれます。そんな塚越は次世代のホンダのエース筆頭候補と言えるでしょう。
先輩ドライバーをハナ差で破りGT初優勝を飾った塚越(青いマシン=KEIHIN HSV010) 【写真提供:SUPER GT.net 】 |
【塚越広大の走りが見れるレース】
SUPER GT
第7戦 (9/11,12)富士スピードウェイ
第8戦 (10/23,24)ツインリンクもてぎ
SUPER GT 公式サイト
フォーミュラニッポン
第5戦 (9/25,26)スポーツランド菅生(宮城県)
第6戦 (10/16,17)オートポリス(大分県)
第7戦 (11/13,14)鈴鹿サーキット(三重県)
フォーミュラニッポン 公式サイト
塚越広大 公式サイト
次のページではバイクレース、2輪の若手ホープをご紹介します。