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レーシングカーはなぜ速い?(4ページ目)

「レーシングカーはなぜ速いか?」そして「どのようにして、どんどん速くなっていくのか?」そんな素朴な疑問にお答えするシーズンオフ企画。レーシングカーの進化の秘密に迫ります。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

いかにウイングに効率よく空気を当てるか?

レーシングカー工場で日夜行われている風洞実験は空気の流れをコンピューターで読み取ることが目的だ。簡単にいえば、いかに効率よくウイングに空気を当てて「ダウンフォース」を稼ぎ出せるかを実験しているのである。

飛行機のように横に広がる形で翼が付いていれば、空気の流れを邪魔するものはないのだが、レーシングカーは前後にウイングを装着しており、サスペンションアームもあればタイヤも付いているしで、空気の流れを妨げるものがたくさん存在する。そこで空気の流れをうまく整理し適正なダウンフォースを得ようと、様々な形状の突起物、空力パーツが付けられ、近年のレーシングカーは時にイビツな形にもなっていたりする。
マシン全体に様々な空力パーツが取り付けられた2008年のF1マシン
【写真提供:Bridgestone Motorsport】
また、「ダウンフォース」はウイングで得るだけでは充分とはいえない。レーシングカーの空力性能で重要なのは、マシンの底を流れる空気を利用して「マシン全体でダウンフォースを得ること」である。走行中にマシンの低い位置にある底面に入った空気の流れは一気に速度を増して、マシン後方へと出て行く。その時にダウンフォースを発生させる空力パーツがマシンの後方に付けられたディフューザーである。この形状をうまく作りこむことによって、マシン全体で得られるダウンフォースの量が大きくなり、結果としてマシンは安定性を増すのだ。
ディユーザーを利用してダウンフォースを得る。

2009年、マクラーレンが使用した「ダブルデッカーディフューザー」。ウイング下のディフューザーが二段構造になっている。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】

2009年のF1で一部のチームが装着した二段構造の「ダブルデッカーディフューザー」が問題視されたが、議論の末、合法となり、後に全チームがこれを採用したことがあった。これを採用したチームとそうでないチームで、大きな差ができていたのも事実で、ディフューザーによる空力処理もレーシングカーの重要なポイントになっている。地味ではあるが、是非これからはバックショットも気にしながら見て頂きたいものだ。

タイヤはとっても重要なもの

次に紹介したいのがタイヤである。というか、最初に紹介するべきかもしれないくらいに重要なパーツである。タイヤが無ければクルマではなく、レーシングカーにもならないのは皆さんもお分かりの通り。タイヤはあって当たり前のものであるが、実はレースではタイヤの性能が非常に重要なファクターになっている。

街乗りのクルマでは、多少ゴムが減っていようが気にせず乗っている人が多いと思うが、レースではそうもいかない。タイヤはレーシングカーのハイエンドな性能を路面に伝え、前に進む力を生み出す最後のアウトプットの部分であり、この効率が最適でなければレーシングカーの高性能ぶりは全て無駄になってしまうのだ。
市販車に比べて太いF1のタイヤ。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】
レーシングカーに装着する専用タイヤは市販車用のラジアルタイヤとは比べ物にならないくらいに路面に食いつく力=グリップ力が強い。ハイパワーを路面に伝え、遠心力に耐えて走行するために、レーシングタイヤでは非常に柔らかいゴムが採用されている。ゴムを発熱で溶かし、その粘り気でもって路面に食いついていくのである。

一方で、柔らかいタイヤは強烈なグリップを得られるのと引き換えに、摩耗も早いことが難点となる。市販車のタイヤではそれこそ2年、3年かけて使うのはザラだが、レース用のタイヤでは予選アタックの1周だけのために使われる強烈なハイグリップのタイヤも存在する。しかし、決勝レースにおいては毎周ごとにピットインしてくるわけにはいかない。そのためレーシングタイヤではグリップ力が高く、摩耗しにくいタイヤが理想的だ。タイヤメーカーでは、そういった相反する特徴を両立させるための技術開発が日夜行われているのである。
走行を終えたタイヤはすぐに表面温度などが計られ、入念なチェックが行われる。メーカーにとっては品質管理も重要な仕事。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】
とはいえ、タイヤの開発は机の上だけでやれるものでもない。実際にレーシングカーに履かせて、そのマシンの性能を理想に近い形で引き出せているかを確認する必要があり、相当な周回数を走りこんで様々なタイプをトライせねばならない。それゆえタイヤの開発競争はレースのコスト高騰につながってしまう。最近、テスト日数を制限したり、タイヤメーカーを1社による一括供給にするレースが増えているのはそのためだ。

次のページではその他の分野のレーシングカー開発を紹介しよう。
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