モータースポーツ/その他のモータースポーツ関連情報

レース業界は終わってしまうのか?(3)(4ページ目)

「冬の時代」を迎えているモータースポーツ業界の現状と今後の展望をご紹介する特集記事もいよいよ最終回。レース界に本当に明るい未来が待っているのか検証しながら、ガイドが感じる改善点を綴る。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

低迷する底辺レース、ワンメイクレース業界

「レースを盛り上げるには底辺のカテゴリーが盛り上がらないといけない」という意見はここ数年、盛んに日本のレース関係者から耳にする言葉だ。F1やGT、二輪ならMotoGPや全日本ロードレースに良い選手がステップアップしてくるには、底辺のアマチュアレースが盛況かつコンペティティブでなければならない。

しかし、実際には20年前に比べるとアマチュアレースにかかる費用は格段に高騰している。例えば四輪のフォーミュラカーレースで500万円の車両を購入して年間1000万円の近くの費用をかけてレースに勝利したとしても、その上のカテゴリーではその3倍、4倍の資金が必要になるのが現実である。その資金サポートとして自動車メーカーの賞金やスカラシップが存在したのだが、この不況で今後はそれも期待できない状況である。1レースにかかる費用が高騰している以上、若いドライバーが寝る時間を惜しんで働いてもレースの資金を自分で賄うのは難しく、今まで存在したアマチュアレーサーたちを相手にしたビジネスはますます苦しくなるだろう。
FJ1600に代わる入門レースとしての役割を担う「スーパーFJ」。車両本体価格はエンジン付きで350万円以上する。
一方で趣味的なレースはどうだろうか?ワンメイクレースとしてはトヨタ・ヴィッツを使用したナンバー付きのレースが今も盛況だ。マシンがTRD製作のワンメイクレース仕様車(本体価格は220万円程度)に限定されてからは少し出場台数が減ったものの、チャンピオン戦には全国から60台のマシンが参戦するなど不況に関係なく元気がいい。北海道では元スピードスケート選手の三宮恵利子さんもヴィッツレースを楽しんだりしているし、女性ドライバーの参戦も多い。

しかし、ヴィッツと同じコンパクトカーのニッサン・マーチのレースは今年をもって終了。その上のトヨタ・アルテッァのレースも昨年を最後に開催されていない。また、歴史の長いワンメイクレースとしてはホンダ・シビックのレースがあるが、現行型シビックのレース車両の製作にはかなりのコストがかかるようで(一説には1000万円近く)、趣味のレースとしてはかなり高価なものになり、以前のインテグラレースよりも出場台数は減少してしまった。
ヴィッツレースは大盛況
各サーキットの地方戦を見ても四輪、二輪ともに以前のような盛況な出走台数は期待できず、予選落ちが出るレースはほとんどない。参加者の年齢層も30代後半から50代の選手がほとんどになっていて、特に二輪の参加型レースは平均年齢があがっており、20代の選手は数人程度に留まっているのが現状である。このまま10代後半から20代の選手がレースに参加しなければ、5年後あるいは10年後には趣味で楽しむ底辺レース界はそれこそ全て消滅してしまいかねない。

若者にレースは必要ないものなのか?

今の若者の多くがレースに興味が無いのはある意味、ごく自然なことだ。一家に一台、車があり、親の車を借りれば充分満足な時代である。グループで遊びに行けるミニバンやSUVが好まれ、スポーツカーをチューニングして走らせることがカッコイイ時代は既に終わったのだ。マニュアルシフト車もほとんど存在しないため、そういった車を運転するチャンスもなければ、その必要性を感じる若者はほとんど居ないのが現実である。(僕もある意味、それに近い世代である)
スポーツカーやチューニングカー、レーシングカーで若者の心を捉えるのはもはや無理なのか?

レース業界はその現実にもっと早く気づくべきだったのではないか?とも思う。車やバイクを操る楽しさを青春時代に学んできた世代には今の現実は理解しがたいものかもしれないが、実はそれが10年前から世の中の流れであったのだ。「若者にバイクに乗って欲しいから、楽しさを伝えたい」「今こそスポーツカーの良さを若者に感じて欲しい」今盛んにそういう言葉を発する人がいるが、それは大人のエゴでしかなく(単なる先輩ヅラに近いものかもしれない)、全く若者のことを理解しようとしていない。レースを愛し、車を愛し、それらを支えてきた世代も若いころを思い出して欲しい。「乗るな」と言われたから「乗った」のではないか?「公道で速く走るな」と言われたから「サーキットで走った」のではないか?草食系が増えたとよく言われるが、今も若者は反発心と新しい感性の塊であることは変わりがないのである。大人が勧めるものは、古臭いのだ。

今の若者と熱血なオジサンたちが同じ喜びを共有しようとしても、それはまず感覚的に無理な話である。でも、そのオジサンたちがとにかくカッコよくて憧れる存在だったとしたら、粋のいい若者はついてくるものだ。「昔凄かった人」が現役を引退して10年も20年も神格化されているようでは駄目なのだと思う。

レース界でいえば、いつまでも「セナ」「プロスト」「シュワンツ」「スペンサー」「ガードナー」が神様になっていてはいけないのである。日本のレース界も今まさに兄貴的存在のベテラン選手が早くチームを起こし、若手を走らせ、その若手を引き立てる存在にならなければ、選手と同じ世代の若者の心を惹きつけることは難しいだろう。今まさに、世代交代が必要なのだ。

若者空洞化のレース界の未来はどうなってしまうだろう?

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