モータースポーツ/その他のモータースポーツ関連情報

レース業界は終わってしまうのか?(3)(3ページ目)

「冬の時代」を迎えているモータースポーツ業界の現状と今後の展望をご紹介する特集記事もいよいよ最終回。レース界に本当に明るい未来が待っているのか検証しながら、ガイドが感じる改善点を綴る。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

レンタルカートはモータースポーツ唯一の希望?

自分の車やバイクで走る人が減っている今、ミニサーキットの安定した収入源になっているのが、誰でも気軽に乗ってモータースポーツを体験できる「レンタルカート」だ。レーシングカートの体験版で、最近はほとんどのミニサーキットがレンタルカートを持っている。その多くは環境に配慮した4ストローク・200ccエンジンを搭載するカートで、2ストロークエンジンのレーシングカートほどの瞬発的な速さはないが、最高速度は時速60km前後とスピード感は充分に楽しめるものだ。
レンタルカート
【写真提供:幸田サーキットYRP桐山】
タイムアタックが楽しめるだけでなく、サーキットによってはレンタルカートのレースを開催しているところもある。会社の同僚や友人などとチームを組んで耐久レースに参加したり、会社のレクリエーションとして貸切でレースを楽しんだりすることもできる。

「レンタルカート」は随分昔から存在するものだが、業界ではあくまで「簡単な体験用具」としか捉えられていなかった。本格的にレースに参加したいユーザーにはカートショップを紹介していたものだが、最近はヨーロッパ製のレーシングカートが値上がりして、シャシーだけで50万円以上、エンジンや装備品などを購入すると初期投資で100万円程度必要になってくることから、最近は1回僅か2000円程度で楽しめる「レンタルカート」の方が人気を集めている。レンタルカーターたちは何百回と練習して、レンタルカートのレースを楽しんでいるのだ。もちろん飽き足らなくなったユーザーはレーシングカートを購入するのだが・・・

「レンタルカート」はスピードこそ遅いものの、レースを楽しむためだけならもってこいのアトラクションで、4ストロークエンジンの回転を落とさずにコントロールしながら、いかに速くコースを周回するかがポイントだ。この作業は意外にも奥が深く、面白い。時折、GTなどに乗っているプロドライバーがゲストとして一緒に走ることがあるが、プロドライバーとて練習を重ねているレンタルカーターに勝つのは難しいほどだ。

また「レンタルカート」はGTやF1をキッカケにレースを観るようになり、レースの世界にハマってしまったレースファンがモータースポーツを体験するのに最適のツールでもある。たかがレンタルのゴーカートといえど、スピンを喫しながら数周を走り終えた後、凄まじい汗と手の痛み、そして翌日には筋肉痛がやってくる。レーシングドライバーとして速く走ることがいかに難しく、大変なことであるかを体で感じることができるのだ。

ラップタイムを削る作業も容易なことではないし、頭を使って考えなくてはならない。チームを組んで耐久レースに出た時にはチームワークの必要性やレースマネージメントの難しさを感じ、よりレースが好きになってもらえると思う。F1を見て、「あのドライバーの走りは最悪だったね」と上から目線でドライバーを批評する前に、レンタルカートでレコードタイムを塗り替えてみるとよい。1番になることがいかに難しいかが良く分かるはずだ。
レンタルカートは走っていて気持ちいい!
(愛知県・幸田サーキットにて)

いきなりレーシングカートを買う必要も、フォーミュラカーを買う必要もないのである。目立ちたかったり、レーシングドライバーとして生計を立てる夢があるなら話は別だが、遊びなら「レンタルカート」で充分である。そして、「レンタルカート」はプロドライバーとの交流イベントにも最適なツールだ。タイムアタック大会に参加しろと言わない限り、ドライバーたちも楽しみながら、気軽に参加してくれるであろう。

「レンタルカート」はレース業界ではまだまだ軽く見られている存在だが、今後、各サーキットのカートの規格が統一され、全国大会などが開催できるようになればなお盛り上がってくるだろう。興行レース業界も真面目に「レンタルカート」ビジネスとのつながりを考えても損はないはずだ。

二輪ではミニモトの耐久レースが大盛況!

一方で二輪レース界ではミニバイクによる耐久レースが大盛況だ。鈴鹿サーキットで開催されている「ミニモト4時間耐久ロードレース」は特に大盛況で、ホンダXR100モタードやAPE100などで出場するSTクラスのレースはあまりにエントリー台数が多く(なんと200台以上!)、今年は2日間にグループ分けをしてレースが行われるまでになった。不景気もなんのそのである。
ミニモト4耐のOPENクラスに出場し、優勝したチーム。
グリッドは和やかな雰囲気に満ちている。
ミニモトはSTクラスなら車体の価格が40万円以下と手頃で、しかもローコストで楽しめるのが魅力だ。私服で走れるレンタルカートとは異なり、ライディングスーツやヘルメットなどレースの規定に合致した装備品は必要になるが、車両代、消耗品代を参加者4人で割っても月々の「お小遣い程度」で8耐気分のレースをエンジョイできる。さらにマシンのメンテナンスも運搬も簡単で、それこそ湖にジェットスキーを浮かべて楽しむ感覚でレースに参加できるのも魅力的だ。もちろんレースを完走した時の感動はレクリエーションを越えたものになるだろう。

実際にレースに参加するチームを見てみると、エンジンを何機も用意したり、お金を掛けて優勝を狙いに行くチームはそう多くはない。どちらかというとエンジョイ派のチームがほとんどだ。しかし、レースは危険が伴うものであり、取り組む姿勢は真剣そのもの。キッチリと作戦も考え、楽しみながらレースを戦っている。

3人から4人で組むライダー編成も女性ライダーばかりのチームがあったり、10代前半の小柄なライダーばかりで固めた少年チーム、バイクショップの仲間で作ったチーム、そして会社の仲間で作ったチームなど様々である。

会社の仲間で作ったチームといえば、STクラスのレース2日目に出場した「ビジネスラリアート」チームは何と今年入社したばかりの新入社員をレースで走らせていた。ライダーもピットクルーも若い社員が務め、社員一丸となってレースを走った。ただ単に楽しみのためにレースをするのではなく、同社のように社員教育や会社の団結力を強くする場としてレースを取り入れるのも一つの形ではないだろうか。
京都のIT関連企業「ビジネスラリアート」の社員チーム。社長はST600鈴鹿4耐にも出場するアマチュアライダーでもある。若い社員たちがレースを通じ成長することを願い、レースに出場している。
手軽に楽しめる「レンタルカート」や「ミニモト」はこれまでのモータースポーツと比べるとあまりに敷居の低いもので、レースビジネスとしてなかなか認識されていないものだが、確実に人気は上がってきているし、事実、サーキットにとっても旨みのある収入源になっている。

次のページでも参加型レースの未来について取り上げます。

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