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インディジャパンをもっと楽しむために(3ページ目)

9月に日本に上陸するアメリカ最高峰のレース「インディカー」。その日本戦「インディジャパン」をさらに楽しむために、アメリカンモータースポーツの見所や面白さを分かりやすく解説します。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

アメリカンレースで最も有名な言葉

アメリカンモータースポーツの重要なキーワードのひとつが「定番」である。ファンを楽しませるためにレースごとに異なる演出を行うわけではなく、毎回「定番」の演出でレースに対する期待を高めていくのも大きな特徴だ。

スターティンググリッドの紹介が行われた後、キリスト教徒の多い国らしく神父がレースの安全を祈願し祈りを捧げる、そして有名歌手などによってアメリカ国歌「星状旗」が歌われ、それに合わせてアメリカ空軍の戦闘機などがサーキット上空に飛来する。ここでファンのテンションは一気に高まる。そしてその後にエンジンスタートの合図として「Ladies and gentlemen, start your engines」の言葉が発され全車がエンジンスタート、そしてスタート前のフォーメーションラップへと入っていくのが定番のスタートセレモニーである。
インディジャパンでは日本国歌、アメリカ国歌に続いて自衛隊の「ブルーインパルス」が飛来し、曲芸飛行を行うのが定番(天候によって中止もある)。アメリカでは輸送ヘリから戦闘機、そしてステルス爆撃機まで様々な軍用機が国歌に合わせて飛んでいくので圧巻。何が飛んでくるのかもファンの楽しみの一つである。
【写真提供:MOBILITYLAND】
特に「モータースポーツで最も有名な言葉」として紹介される「start your engine」のスタートコマンドはアメリカンモータースポーツの定番中の定番で、これがないと始まらない代名詞的なもの。「インディカー」などの大きな興行レースではそのコマンドを聞いて観客が大歓声をあげ、興奮の場と化すのが定番だが、そのための演出として決勝日はスタートまでの間、ウォームアップやフリー走行などを行わない。つまり観客が決勝日に全マシンのエンジン音を聞くのは、スタートコマンドの言葉が発せられてから。
「いよいよスタートだ!」というファンの気持ちの高揚をあおる演出もしっかりと考えられているのである。
40万人の観衆を集めるアメリカ最大のモータースポーツイベント「インディ500」ではサーキットのオーナーである女性、メリー・ハルマン・ジョージがスタートコマンドを発するのが定番。また戦没者追悼記念日の週に開催されるため、セレモニーの中でコメディアンでシンガーのジム・ネイバーズがインディアナ州の兵士の歌である「Back Home Again In Indiana」を情感たっぷりに歌うのも定番である。なお、この曲はルイ・アームストロングなどが演奏するジャズスタンダードとしてもおなじみだ。毎年同じ人が同じことをやっても盛り上がるのだ。
【写真提供:本田技研工業】


セーフティーカーも元はといえば米国が発祥

他にもアメリカンレースの定番がある。今やF1や2輪レースなどでもお馴染みとなった「セーフティーカー」の導入も元々はアメリカンレースを特徴づける定番である。レース中に大きな事故などが発生すると、「セーフティーカー」が導入され、コース上での追い越しが禁止となり、レースが中立化される。アメリカンレースではこの状態を「コーション(注意、警告)」と呼んでいる。
ホンダ・アコードのペースカーによって行われる先導走行=コーションラップ

アメリカには楕円形のレース場=オーバルコースでのレースが多い。オーバルコースにはランオフエリア(砂地などの待避エリア)が存在せず、コースサイドは壁に囲まれている。そのためクラッシュが発生するとコース上にマシンの破片などが飛び散り、非常に危険な状況になるうえ、ドライバーの救護も不可能である。そのため、オーバルコースではクラッシュなどが発生するたびに「コーション」の状態になり、先導走行によりレース中のマシンの速度を落させ、その間に事故処理を行うのが常である。つまり、オーバルでのレースではしょっちゅう「コーション」が発せられ、レース中に二度三度とレースが中立化される。
コーションラップ中にピットレーンがオープンになると給油、タイヤ交換のためにマシンが一挙にピットインしてくる。レース終了までの燃費の計算をし、このあとのレース中にコーションが出る可能性も加味しながらカケに出て、ピットインしない=ステイアウトするドライバーも出てくる。この作戦の違いがレースの結果をさらに面白いものにするので、誰がどのタイミングで入ったかステイアウトしたかはキッチリと把握しながら観戦したものだ。
【写真提供:MOBILITYLAND】

「コーション」のおかげで、せっかく築きあげたマージンが無くなったり、差をつけられていたドライバーが逆転のチャンスを得たりと、アメリカンレースは最後の最後まで勝者が分からないというのが常だ。危険回避のために導入されるのが本来の目的なのだが、その導入がレースの面白くするのである。

エンターテイメントの国=アメリカらしく、ファンを飽きさせないようにと、小さな破片を見つけただけで「コーション」を出し、例えそれがレースの安全性に影響が無くてもレースを中立化することもある。ストックカーレースの「NASCAR」ではこういった「コーション」が頻繁に導入され、差が大きく開き続けるレースはほとんどない。

ヨーロッパ起源のF1や日本のレースには90年代までこういった概念はなく、その歴史も15年ほどだが、アメリカでは1911年の第一回「インディ500」で既に導入されていたというから、まさにこれもアメリカンレースの定番である。ちなみに「セーフティーカー」はヨーロッパ的な呼称で、アメリカでは先導走行車両を「ペースカー」と呼ぶ。

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