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ライダー達の涙 8耐は大人の甲子園

今年も様々なドラマが見られたコカコーラ鈴鹿8耐。このドラマ見たさに今年も多くの観客が鈴鹿サーキットに詰め掛けた。ライダーが全力を尽くし勝利へ邁進する姿を追った。

辻野 ヒロシ

執筆者:辻野 ヒロシ

モータースポーツガイド

風よ鈴鹿へ ライダー達の夢が集まった鈴鹿

8耐前夜祭に登場したトップライダー達。今大会のライダーで8耐の優勝経験者はわずか7人。今年こそはと夢を大きなバイクに乗せて彼らは走る。
今年も最後の表彰式が終了した後、高原兄さんの歌う「風よ鈴鹿へ」がスピーカーから流れてきました。鈴鹿8耐という偉大なる耐久レースを端的に表した8耐を象徴する歌ですね。何とも切ないメロディがライダーの心の中にある感情を表現し、ライダー達の過酷で孤独な戦いのつらさを伝えてくれます。
FIM世界耐久選手権の1戦として開催される鈴鹿8耐ですが、日本のライダー達にとっては1戦限りの大舞台であり、多くのライダーにとっての1年は大晦日/元旦ではなく毎年の8耐の決勝を境に刻まれているとも言われます。今年も多くのライダー達が華やかな舞台で輝いた笑顔を見せましたが、レースではドラマが生まれ、喜びと共に叫びが噴出し、悔しさと共にとめどない涙がライダーの瞳から流れ落ちました。ライダーやメカニックが流した汗と涙はきっと8耐に出場した全マシンのガソリンタンクが満タンになるほどの量でしょう。ピットで見た今年の8耐のドラマを振り返ります。

小西良輝 36歳にしてようやく登りつめた8耐の表彰台

小西良輝は京都府出身。20歳でロードレースにデビューし、トップライダーとして地道に階段を登り続けた、叩き上げのライダーだ。1発の速さは若いライダーを圧倒する。ガッツ溢れる走りと体育会系の面倒見の良さで周囲からの信頼も厚い。
あれは去年の3月のことでした。僕は小西良輝(こにし・よしてる)選手から1枚の名刺を頂きました。「HRCの契約ライダーになりました。今年は8耐優勝を狙っていきますよ。」そう語った小西選手の笑顔は今でも忘れられません。HRCはホンダワークスチームのこと。小西選手はホンダCBR1000RRの開発を任されることになったのです。HRCに入るということは多くのライダーにとって大きな夢です。バイクメーカーに実力が認められたことであり、日夜バイクに乗ることで生計を立てることができるこの上ない環境です。そして8耐ではワークスチームで優勝できるかもしれないという夢の1歩手前まで来ていました。しかし、昨年の8耐はセブンスターホンダ7号車の補欠ライダーとして登録され、小西選手は8耐では裏方に徹することになりました。結果的に7号車は優勝を飾りました。しかし、ライダーにとって8耐を走れないというのは苦痛以外の何物でもありません。ましてや補欠として万が一に備えてサーキットでスタンバイしなければならないのです。その悔しい思いをグッとこらえて小西選手は裏方に徹し、レギュラーライダーを懸命にサポートしていました。あれから1年、「悔しかったけど、去年の8耐で今まで見えなかったものが見えた。」と語った小西選手はTOY STORY Racing Team RUN'A & HARC-PROからの8耐参戦を発表し、悲願の8耐優勝に向けて大きな1歩を踏み出しました。マシンは自らが開発を続けるCBR1000RR。プライベーターながらも、この上ない体制を得て挑んだ今年の8耐でした。

努力が実った瞬間。後輩である安田と共に表彰台にあがった小西(写真:右)。
ゼッケン101番を付けた小西選手のチームメイトは安田毅史(やすだ・たかし)。共にHARC-PROで全日本ST600のチャンピオンを獲得した心強い後輩です。金曜日の計時予選ではニュータイヤを履いて果敢にアタックし、見事なスーパーラップでトップタイムを獲得し、トップ10トライアルに挑みました。しかし、ポールポジション獲得はならず、決勝レースに全力を尽くすことになりました。冬の間、8耐に向けてトレーニングを重ね体を絞り込んだ小西選手。ピットの奥でチェアに腰掛け、タイミングモニターを凝視し、予選のアタックに出て行くその風貌は8耐を戦う侍でした。とにかく勝利に向かって集中している空気がありありと伝わってきて、不安要素は全くないように感じられました。101号車は決勝で2位を快走。ラップタイムでは778号車の先行を許しましたが、奇跡を信じ安田選手と共に集中力を途切れさせずに8時間先のチェッカーフラッグを目指しました。夜間走行となったレース後半にもマシントラブルが起こることは無く、2位でチェッカーを受け、小西良輝選手は見事にライダー人生初の8耐表彰台にあがりました。鈴鹿8耐の表彰台はコントロールタワーの2階。今でこそ全日本のレースでも使われますが、つい最近まではグランプリとこの8耐でしか使用されなかった特別な表彰台です。高い位置にある表彰台に登った選手を大観衆が大声で迎えます。長いロードレース人生で初めての眺めは如何ほどの感動か?表彰インタビューで泣き崩れた小西選手の姿が全てを物語っていました。
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