■2005年 4月8日(金)

8時にタクシーを呼んで《SIHH》へ。この日は田園と山岳をドライブし、ル・ロックルとフルリエという村まで行く。会場でバスに乗り換えて出発。ぶっぱぽー(←ホルンの音)。

ジュネーブから1時間半ほどかけて到着したのは、ル・ロックルのシャトー・デ・モン時計博物館。貴重なオートマタ*やアンティーク懐中時計などを所蔵する、時計とオルゴールの博物館だ。ここにいると、ピンク・フロイドの『タイム』という曲を思い出す。15分おきにあちこちの置き時計がキンコンキンコン、ボーンボーン、チンチンチンチン……といっせいに鳴るのだ。見どころは、最近パルミジャーニの工房で修復されたばかりの手鏡のオートマタ、ムーア人が奇術を披露するオートマタ、アブラアン・ルイ・ブレゲ本人の手による懐中時計など。さまざまなレアものの展示にまぎれて、なぜかたまごっちも飾られていた。

シャトー・デ・モン博物館~1 シャトー・デ・モン博物館~2
▲左:パルミジャーニの工房で修復された手鏡のオートマタ。
右:シャトー・デ・モン時計博物館。www.mhl-monts.ch
『地球の歩き方』にも載っていない、時計ファンの穴場。

地元のレストラン“白い狼”でランチ。メインの郷土料理もおいしかったが、デザートの“アブサントのスフレ”がなんとも香り高く、珍しい。ベル・エポックのパリを席巻し、幻覚症状が問題となって生産を禁じられた幻のリキュール、アブサントが、今年ついに解禁になったのだという。フルリエ地方では伝統的にアブサントの密造というか酒造りがおおっぴらに行われており、店のおじさんはアブサントは身体によいのだと主張していた。

ほどよく酔っぱらった後、『エンジン』のN村氏の希望で時計関係のツールで有名な“ベルジョン”の店に立ち寄る。氏はバネ棒外しなどを購入。

フルリエのヴォーシェに向かう。ここは主にパルミジャーニのムーヴメントを供給するファクトリーなのだが、「ああっっ、これは×××の!」と一目でわかってしまう某ブランド向けのムーヴメントも作っていた。ハイコンプリケーションを組んでいる部屋を見せてもらう。システマティックに管理された製造工程にうまく乗れば(そして何も問題が起きなければ)、わずか2週間でトゥールビヨン機構を組み込んだムーヴメントを仕上げることができるという。

そのすぐそばにあるパルミジャーニのファクトリーでは、時計師がミニッツリピーターに取り組んでいた。トゥールビヨンと違い、ミニッツリピーターの製作は2カ月もかかる。一度組み上げたものを、再分解してまた組み直すのだそうだ。お疲れさまです。

ヴォーシェ パルミジャーニ
▲左:ヴォーシェにて組み立て中のトゥールビヨン。
右:パルミジャーニでミニッツリピーターを組んでいる時計師。
ヴォーシェ www.vauchermanufacture.ch
パルミジャーニ www.parmigiani.ch

続いて、カリテ・フルリエ財団を訪問。ここが日本の記者たちに公開されたのは今回が初めて。建物は、19世紀に中国との交易で財をなしたボヴェが建てたお屋敷。ちなみに隣の建物は、ギョームバランスでノーベル賞を授賞したC.E.ギョームの生家。

カリテ・フルリエは、2001年にスタートした腕時計の品質の新基準だ。CHRONOFIABLEとCOSCの検査に合格したムーヴメントに対して“フルリエ・テスト”を行い、合格したものに証明書を発行している。現在、ショパールとパルミジャーニがカリテ・フルリエの認定を受けたモデルを生産し、ボヴェも認定に向けて取組中だ。

フルリエ・テストは、人間の日常の腕の動きをシミュレーションしてモーションキャプチャーのようなデータを取り、腕時計にかかる重力や加速度、姿勢差を機械で再現して、ムーヴメントがそれに耐えうるかどうかを24時間かけて試験する。コーヒーを飲むとか、車に乗ってドアを閉める、といった日常の行動が機械にプログラムされているが、最も腕時計にGがかかったのは、意外にもゴルフのスウィングではなく、セーターを着るときの腕の動きだったのだという。取材中も、ショパールの時計を入れた機械がギュンギュン回っていた。

ヴォーシェ パルミジャーニ
▲左:フルリエ・テストを実施中のマシン。
ムーヴメントを仕込んだ内部の機械がすごいいきおいで回る。
右:カリテ・フルリエの証明書を前にしたシモナン氏。
カリテ・フルリエ財団 www.qualite-fleurier.ch

この財団で技術委員会の委員長を務めるアントワーヌ・シモナン氏に話を聞いているさなかに、強烈な眠気が襲ってきた。ノートをとり、写真を撮りながらも、10秒間のうち0.5秒くらいは意識が遠のいてしまうのだ。取材最終日にいたって、ついに体力の限界が訪れた。

帰り道のバスのなか、『エスクァイア』のM山氏とO野氏のあいだに座り、ふたりの肩を借りながらレトログラード**状態で爆睡。これで今年のスイス取材は、カゼもひかずに全日程を完遂したことになる。明日は帰国。東京の桜がまだ残っていたらうれしいんだけど……。

*オートマタ……さえずる鳥や人形などを機械仕掛けで動かした、昔の王侯貴族のためのからくりおもちゃ。 **レトログラード……針が時計回りに回らずに、車のワイパーのように行ったり来たりする機構。

 

■2005年 バーゼル&ジュネーブ取材日記
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