相続・相続税/生前贈与・贈与税の基礎知識

生前贈与とは?知っておきたい活用方法と注意点

贈与とは、自己の財産を相手に無償で与えることを指します。贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、受贈者(もらう側)に申告・納税義務が生じます。贈与にならないものやトラブルの原因になることについても解説します。

小野 修

執筆者:小野 修

相続・相続税ガイド

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平成27年からの相続税が増税になる一方で、贈与税も同時に改正になり、贈与税は場合によっては減税になっています。相続税対策が一段と盛んになっているなか、生前贈与の基礎知識・贈与税・費用・注意点について確認しておきましょう。
安心して生前贈与をするために、基本を理解しておきましょう

安心して生前贈与をするために、基本を理解しておきましょう


生前贈与とは 知っておきたい基礎知識

一般的に贈与とは、自己(贈与者)の財産を無償で相手(受贈者)に与えることを言います。

このうち俗に「生前贈与」と言われるのは、相続対策を目的とした個人から別の個人への贈与を言います。その多くは親族間の贈与で、相続税対策や遺産分割対策を目的とすることがほとんどです。

生前贈与の説明の前に、そもそも贈与税の対象にならないものをいくつか紹介します。

生活費や教育費などの援助として消費したお金などは贈与税はかかりません。ただし、名目上は援助で、実は使わずに残っている場合は贈与税の対象となります。

双方の合意が無く、例えばAさんがBさん名義に財産を移転しただけといった、いわゆる名義財産はそもそも贈与にあたりません。将来Aさんに相続があった際はAさんの財産と認識され、相続税の対象になります。

不動産の贈与は登記が必須です。「あげたつもりだった」「双方が合意していた」と言い張っても、登記がされていなければ、贈与は無かったものと見なされてしまいます。

贈与は契約であることに注意

贈与

知っておきたい贈与の基礎知識


せっかくの生前贈与が無効にならないように、「贈与は契約である」ことをしっかりと認識しましょう。

贈与は贈与者の「あげる」と受贈者の「もらう」の意思表示で成立する契約です。口頭でも成立しますが、後でトラブルにならないよう、贈与契約書を残すことが望ましいです。

例えばお金を孫にあげたとしても、その通帳や印鑑を祖父が持っていては、孫は自由に使えません。これではただの名義財産と認識され、贈与の契約は成立していないことになります。

贈与と相続の違いって? 遺言書との関係性は

相続とは、人が亡くなったときに、その遺族が遺産を引き継ぐことを指します。このとき、亡くなった人を「被相続人」、遺産を引き継ぐ人を「相続人」と言います。相続人になれるのは配偶者と次の順位の人であり、これは法律で定められています。

1.子(すでに死亡している場合は孫。孫も死亡している場合は曾孫)
2.親(すでに死亡している場合は祖父母)
3.兄弟姉妹(すでに死亡している場合は甥姪)


贈与と相続の違いは大きく分けてふたつあります。まず生前なのか、死後にするのか。贈与は一般的に生きているうちに財産を与えることを言います。それに対し相続は死亡により遺産が発生することを指します。つぎに権利者の範囲です。相続は法定されるのに対し、贈与は法定相続人でない人にも行われます。

生前贈与は遺言書と組み合わせて使うことによって、さらにその効果を高めることができます。遺言では、法定相続分の変更や財産の指定、遺言執行人の指定などが可能です。具体的に誰が何を取得するのかを遺言書に残しておくことで、よりスムーズに手続きを進められるでしょう。

贈与税には2つの課税制度がある

贈与が行われた際の贈与税の課税の制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」があり、受贈者(もらう側)に申告義務や納税義務が生じます。

暦年課税
財産をもらった人のその年の合計額(=複数の人からもらった場合でも、もらった人の合計額)が基礎控除110万円を超えると、その超える部分に贈与税がかかります。110万円以下なら贈与税はかからず、非課税となります。その場合、贈与税の申告は不要です。

なお、配偶者には、一定の要件のもと居住用不動産(取得資金を含みます)の贈与があった場合、110万円とは別に2000万円の配偶者控除があります。

相続時精算課税
贈与者が60歳以上、受贈者が贈与者の子供もしくは孫で20歳以上であるという要件を満たしていた場合、利用できる制度です。その贈与者からの贈与が2500万円に達するまでは贈与税がかからず、2500万円を超える場合はその超える部分に20%の贈与税がかかります。

なお、相続時精算課税を選択した場合は贈与時に贈与税を納めますが、贈与者が亡くなった際には相続税の計算に贈与財産を含めて相続税を計算し、この相続税といったん支払っていた贈与税との差額を支払う(もしくは還付を受ける)ことになります。

生前贈与を活用して非課税になる特例とは

●住宅取得資金贈与の特例
住宅取得資金(購入費用、建築費用、増改築・リフォーム費用)を贈与する場合、最大3000万円(消費税10%の場合)まで非課税となる制度です。受贈者が贈与者の直系尊属で20歳以上、年間所得が2000万円以下であれば利用できます。また贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住宅を取得し、移住することが要件となっています。

●教育資金贈与の特例
子や孫へ教育資金を贈与する場合、1500万円まで非課税となる制度です。非課税の対象は、学校へ直接支払われる入学金や授業料、ランドセルや教科書といった学用品の購入代金です。学習塾など学校以外の指導者への支払いに対する贈与は、500万円まで非課税となります。受贈者(子や孫)が30歳になるまでに教育資金として使い切れば、贈与税はかかりません(※この制度は平成27年4月1日から平成31年3月31日までの期間限定措置です)。

●結婚子育て資金贈与の特例
結婚資金などを一括贈与する場合、1000万円(結婚関係は300万円)まで非課税となる制度です。受贈者が贈与者の子もしくは孫で20歳以上50歳未満であれば利用できます。非課税の対象は、結婚式費用や引っ越し費用、子どもの治療費となります(※この制度は平成27年4月1日から平成31年3月31日までの期間限定措置です)。


生前贈与を活用した場合の贈与税の計算方法

相続税対策として暦年課税で生前贈与をした場合、贈与税の計算例は以下の通りです。

例)500万円を子2人(成年)と孫2人(未成年)に計2000万円贈与した場合

子:(500万円-110万円)×15%-10万円=48.5万円
孫:(500万円-110万円)×20%-25万円=53万円
→合計:48.5万円×2人+53万円×2人=203万円

合計2000万円の贈与に対して203万円の贈与税ですので、10%程度の贈与税の負担となります。将来の相続税の税率がこれ以上になるなら、節税効果があるといえます。

110万円の基礎控除をより多く活用するには、受贈者の数が多いほど相続税の節税効果は高くなります。

不動産の贈与には「登録免許税」「不動産取得税」がかかる

贈与財産が不動産の場合は登記が必要です。不動産の贈与が行われると「登録免許税」や「不動産取得税」がかかります。

例)自宅を贈与した場合
(固定資産税評価額は土地1000万円、建物500万円)

登録免許税:計1500万円×2%=30万円
不動産取得税(土地):1000万円×3%×1/2(特例)=15万円
不動産取得税(建物):500万円×3%=15万円

なお、登記を司法書士に依頼した場合は、合計60万円の税金に加え、司法書士への手数料等も発生します。

●登録免許税
登記免許税は、登記申請する際に納付します。原則として、固定資産税評価額の合計×税率2%で計算します。

●不動産取得税
不動産取得税は、不動産を取得したときに課税となります。固定資産税評価額×税率3%で納める額が求められます。平成30年3月31日までに土地を取得した場合は特例となり、固定資産税評価額(土地)×税率3%×1/2を課税標準額とします。


生前贈与の注意点やメリット・デメリット

生前贈与に伴うその他の注意点をいくつかご紹介します。

●相続時精算課税は相続税対策になりにくい
相続時精算課税は、結果的に相続税の計算に持ち戻されるため相続税の節税にはほとんどなりません。

●“駆け込み贈与”は相続税対策にならない
暦年課税の贈与のうち、相続発生以前3年内の相続人に対する贈与は、相続税の計算に持ち戻されます。そのため、駆け込みでは相続税対策にはなりません。なお、支払った贈与税は相続税から差し引かれます。

●贈与税の配偶者控除は持ち戻しがない
相続発生以前3年内の相続人に対する贈与であっても、贈与税の配偶者控除部分は持ち戻しがありません。

●相続時精算課税でないと贈与税の還付はない
相続税より贈与税が多かった場合、相続時精算課税は多かった部分が還付されます。しかし、相続発生以前3年内の贈与にかかった贈与税は、相続税より多かった部分は還付されません。

●生前贈与の仕方によっては“争続”を招く

生前贈与が特定の相続人に偏ったものであるなどの場合は、将来の遺産分割協議でもめる原因にもなります。

生前贈与の目的は相続税対策がほとんどで、節税メリットは相続人の側にあります。そのため、親に無理に生前贈与をお願いして、親が機嫌を損ねてしまうということも少なくありません。また、必要以上の生前贈与で税金や遺産分割で不利になることもあります。家族全員の合意のもと、トラブルの無いような生前贈与が望まれます。

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