産科医が去って産声が消えた分娩室。国立舞鶴医療センター) |
京都から北へ。若狭湾の方へ向かって列車が走り始めると、すぐに丹波の山の緑や清流の風景が車窓に広がりました。今回、特急で1時間40分の舞鶴を訪ねていくのですが、そこでは、今、ハイリスクの妊婦さんに対応できる病院がなくなってしまいました。それで、舞鶴に住むハイリスク妊娠の方たちは、このような距離を移動して京都市内にまで行っているというのです。
「忙しすぎる」と産科医三名が相次いで退職
少し前まで、舞鶴には市内はもとより周辺の市からもハイリスク出産を引き受けていた病院がありました。独立行政法人国立病院機構舞鶴医療センターの母子医療センターです。このセンターは1982年にでき、2002年には京都府からも周産期医療サブセンター (地域周産期母子医療センター)の指定を受けて以来、ハイリスク出産を一手に引き受けてきました。2002~03年の2年間を見た統計によると、分娩全体の28.9%がハイリスク妊娠で、早産だけでも全体の24% を占めていました。帝王切開は38.4%で、夜間の緊急手術も受けていました。
しかし、2006年、3名いた産婦人科医全員が、相次いで退職してしまいました。ここに医師を派遣していた大学病院から、新しい医師を送ってもらえるめどはまだ立っていません。今、ここに妊婦さんの人影はありません。分娩室も使われていません。
他の病院で生まれた未熟児をNICUの医師が迎えに行く
しかし、産科医が去ったとはいえ、センターがなくなったわけではありません。ここには、NICU(新生児集中治療室)の小児科医と助産師が残されていて、周囲の出産施設で生まれた小さな赤ちゃんを受け入れています。どこかで普通よりも小さな赤ちゃんが生まれると、センターから小児科医が乗り込んでお迎えに行くこともできます。
救急救命士では小さい赤ちゃんには対応できません。「未熟児の子たちはとても繊細な身体をしていて、持ち上げるだけでもこわいくらいなんですよ」とセンターの師長・吉田美和子さんが教えてくれました。「血管も本当に細いので、NICU勤務を体験していないと小児科医でも点滴の針を入れるのが難しいくらいです」救急車の中で呼吸が止まることも珍しくないので、未熟児のための特殊な人工呼吸の機械で呼吸させながら連れてきます。
産科がセンターにあれば、しなくてもすんだはずの救急搬送。それさえも、実は人手がぎりぎりの状態だといいます。産科も小児科も、本当に綱渡りの状態なのです。
そして助産師は?助産師たちはNICUで未熟児や医療の必要な新生児のケアをするかたわら「助産師外来」を開設しました。