<インタビュー> 林昌洋さん(虎の門病院薬剤部長)
産婦人科で大体のことはわかるはずなのに、こうして「妊娠と薬」外来にたくさんの方が来られている。これは、日常の診療では納得できない人が多いと言うことですね。
そうだと思います。先ほどお話ししたように、専門家でもすべての薬の胎児への影響に関する詳細情報を入手するのは困難な現状があります。
そしてもう一つ「入手した情報をどう受けとめるか」という問題もあります。私たちも、はじめは「情報提供」だと思って外来を始めました。でも実際は、カウンセリングの面もあることがわかりました。一人目のお子さんに障害がある方などは、少しの不安でもだんだん心の中で大きくなってきてしまいますし、私も子どもがいますからそうした心理は少しわかります。
私も実は、妻が妊娠中に頸椎を痛めて、どうしても鎮痛剤を使わなければならない時期がありました。文献を調べて大丈夫だとわかっていたのですが「何でもなければいいけれど」と思う気持ちは、外来の来られる方たちと一緒でした。
もし、危険性が高い薬を飲んでしまった、とわかった場合はもっと深い話が必要になりますね。
その意味で、ここはひと一人の命を決める外来なのです。だから、来院する方は大変だと思いますけれど、電話相談ではなく外来形式でしているのです。
基本的に私たちは、不必要な中絶を減らして赤ちゃんを助けたいと思っています。ですから、こちらから「その妊娠をやめなさい」と言うことはありません。5%の子に深刻な異常が出ることがわかっている薬でも95%の子は何の問題もなく産まれてくるのですし、出産を先に送れば加齢によるリスクも増えます。
また、人間の赤ちゃんは薬を飲まなくても、100人産まれれば1人は一見して分かる体表の異常を持って産まれてきます。この数字は、小さなものや内臓の異常も含めると 2~3人になると言われています。これは逃れようのないことです。
結果的に「危険性が高い」と判断される妊婦さんは、外来に来られる方全体の何割ほどですか。
それはとても少ないですよ。皆さん、5分5分くらいを覚悟してお座りになりますが、実際そのようなことになるのは、50人くらい毎月いらっしゃる中で2~3人です。
妊婦さんが不安になりすぎているという面もあるのですね。
日本の薬の添付文書を見ると「妊娠中は使ってはいけない」という意味にとれる文章が多いですね。それはひとつには、裁判になった時、添付文書の記載が強い影響を持つためです。厚生労働省の「医療用医薬品添付文書の記載要領」では「記載の根拠となる情報があれば載せるように」と書かれているのですが、その部分はほとんど書かれていないですね。
海外では危険度が何段階かにレベル分けされて明確ですが、日本では情報量が不足していることは否めません。この情報不足が原因で、自己判断による中絶が起きているのは事実です。
こちらではいろいろな問題を受けとめていらっしゃることがよくわかりました。どうもありがとうございました。
虎の門病院「妊娠と薬相談外来」
(1)薬剤師さんも、ニンプの味方だった
(2)服薬の時期と赤ちゃんへの影響
(3)薬を飲まなければならないとき
(4)もし、危険な薬だったとわかったら
薬の相談ができるところ一覧
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