女性は男性に較べて尿道が短く、膀胱を支える筋肉も弱い。まして妊娠を経験すると、大きくなる子宮に押されるので、尿失禁を起こしやすくなる。子宮と膀胱はお隣同志なのだ。
湘南鎌倉総合病院産婦人科の井上裕美先生は自然出産のドクターとしてつとに有名な方だが、2000年1月、同病院の医師たちと、日本では珍しい「婦人泌尿器センター」を開設した。尿失禁と子宮脱(子宮が下がってくること)の治療に力を入れ始めたのである。このふたつ、骨盤の靱帯や筋肉が弱ってしまうという同じ理由で起きる。
画期的な手術を導入していて、センターは何ヶ月も先まで予約がいっぱいだ。ウィークデーは、朝7時から2件手術をこなし、それから従来の外来業務を始める毎日。
女性がいつまでも活動的に暮らせるように、と願う井上先生に、出産年齢からできる対策を聞いた。深刻化するのは老年期が多いものの、実は、話は妊娠中から始まっている。
妊娠中は6割、産後も2~3割の人が悩む
尿失禁は加齢によって頻度が増えるものですが、妊娠中に始まる人は少なくありません。2003年に私たちの病院の妊婦さんに調査したところ、程度の軽い人も含めると、67.5%の人に尿失禁がありました。その人たちの中で、妊娠前から症状があった人は、わずか6.5%です。
妊娠中の尿失禁は脳卒中などで起きるものとはタイプが違います。くしゃみや重いものを持つなど腹圧が急に上がるときに起きる「腹圧性尿失禁」で、産後は自然に治る人が大半です。
それでも、みんながきれいに治るかというと、そうではありません。私たちの調査では、24.7%の人は産後の一ヶ月検診でも症状が続いていました。海外に、思春期から40代半ばまでの妊娠していない女性を大規模に調べた調査がいくつかありますが、いずれも、4人に1人くらいの割で尿失禁がある、と答えています。