プロ野球・巨人の元投手らによる野球賭博のニュース
Eメールのやりとりだけで野球賭博をしても、罪に問われる
賭博場開帳図利罪とは?
刑法186条2項は、「賭博場を開帳し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。」と規定しています。このうち、前者を「賭博場開帳図利罪(とばくじょうかいちょうとりざい)」、後者を「博徒結合罪」といいます。このように、賭博場開帳図利罪は、「賭博場を開帳し」「利益を図った」場合に処罰の対象となります。「賭博場を開場する」とは、「自ら主催者となって、その支配のもとに賭博をさせる場所を開設すること」をいいます。また、「利益を図る」とは、「利益を図る目的で行為すること」をいい、実際に利益をあげたか否かは問いません。
どうして処罰されるのか?
賭博罪が処罰の対象となる理由について、最高裁判所は、「勤労その他正当な原因によるのでなく、単なる偶然の事情により財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎をなす勤労の美風を害する」旨判示しています(最高裁判所昭和25年11月22日判決)。わかりやすく言うと、みんなが賭博に夢中になると誰も働かなくなり、真面目に働く社会が失われてしまう、ということです。また、今回の野球賭博でも、「胴元は反社会的勢力(暴力団)ではないか」と報道されており、賭博行為を処罰することは、このような反社会的勢力(暴力団)の資金源を断つ、という効果もあります。
とくに賭博場開場図利罪は、「自らは財物喪失の危険を負担することなく、人の射幸本能を利用し、賭博犯を誘引又は助長して利を図る罪で、その反風俗性は、単純賭博罪ないし常習賭博罪に比べて、より顕著」なものがありますし、それが「自ずから他の犯罪を誘発する放蕩・無頼の集団の形成を意味する点」も見過ごすことができません(前田雅英ほか・条解刑法477頁・弘文堂)。
Eメールのやりとりだけでも「賭博場の開場」と言える?
「賭博場の開場」というと、「博徒が賭場に集まって、博打を打つ」というイメージがあるかと思いますが、今回の野球賭博のように、どこかに集まるわけではなく、胴元が顧客と携帯電話のEメールのやりとりだけで賭博を行うことも、「賭博場の開場」といえるのでしょうか?この点については、同じく野球賭博事件で、判例があります(最高裁判所昭和48年2月28日判決)。これは、胴元が事務所に電話、事務机、特製の売上台帳、メモ類、スポーツ新聞、プロ野球日程表等を備えつけ、プロ野球賭博について、電話により賭客の申込みを受けさせ、試合の勝敗が決定した都度、勝者に支払うべき金額の一割を寺銭として徴収した事件です。
最高裁判所は、「刑法186条2項の賭博場開張図利罪が成立するためには、必ずしも賭博者を一定の場所に集合させることを要しないものと解すべきであり、そして、各原判決の判示する右事実関係に徴すれば、『野球賭博』開催の各所為は、事務所を本拠として各賭客との間に行なわれたものというべきであるから、賭博場開張の場所を欠如するものではない」旨を判示して、胴元が顧客と電話で野球賭博のやりとりをした事案について、同罪の成立を認めました。
このように、物理的に集合しなくても、賭博開場図利罪は成立します。ですから、今回の事件のように、胴元が顧客とEメールのやりとりで野球賭博を行うことも、賭博場開場図利罪が成立します。