遺産分割のトラブルを避けるためには?
「遺産分割でもめてしまった。遺言があれば……」。よく聞く言葉ですが、本当に遺言があればよかったのでしょうか。遺言があっても、もめたりわだかまりが残ったりすることもあります。遺産分割で一度もめ始めてしまうと、様々なデメリットが生じます。もめる原因はいろいろありますので、ケース別の対策をご紹介します。
遺産分割でもめると、どんなデメリットが?
遺産分割でもめてしまうと、以下のような様々なデメリットが生じます。- 預貯金がおろせない、財産の有効利用がしにくい
- 相続税の控除等が使えない(配偶者の税額軽減、小規模宅地の評価減)ため納付税額が増える
- 相続税のため不動産の売却、建替えや修繕ができない、立て替えていた費用の精算ができない
- 家庭裁判所における調停による長期化、弁護士に依頼する費用の発生
コミュニケーションが何よりの対策
もめる原因の最も多いケースはコミュニケーション不足です。例えば兄弟だと、遺産分割の話し合いは長男がリードすることが多いと思います。その際に弟が不安を持ったり不信感につながったりするようなことがあると、もめ始めてしまいます。ケース別の原因と対策を確認しましょう。●今後のスケジュールを伝えていない
二男は今後どうなるのか分からず「不安」が「不満」に変わる。
→いつ頃に財産の全容が分かりそうか、遺産分割の話し合いはいつ頃か、相続税はいつ申告するかなど、できるだけ早く伝えておく。
●財産のうちお金が少なすぎる
同居していた長男が使い込んでいたのでは?という想像から生まれる不信感。
→生前から被相続人のお金の出入りを帳簿につけておく。
●他にも財産ないかと疑われる
長男が隠しているのではないかという想像から生まれる不信感。
→できるだけ早く「財産目録」を作成しオープンにする。自分で作成するより弁護士や税理士が作成したものがよい。
●財産を分けてやるという姿勢
二男は「兄からもらうのではなく父からもらうんだ」という気持ちや、自分は財産を欲しくないのに長男が多くを相続することが気に食わないという反発心が生まれる。
→残してくれた財産を守っていくために「協力して欲しい」という姿勢にする。実印は長男が二男に訪問して押してもらう。
●同居と別居の苦労の違いを理解し合えてない
長男は介護の苦労が分かってもらえない。二男は長男がタダで家に住めて生活費を出してもらえていると考える。
→生前からの心遣い。長男はたまに来る二男に「来てくれてありがとう」といって車代や手土産を持たせる。二男は「面倒を見てくれてありがとう」と長男だけでなく長男の妻にも感謝の言葉を伝える。信頼関係や譲り合いの心が生まれる。
良かれと思った生前対策が仇になる
将来もめないようにと考えた対策が、遺産相続の時にもめる原因になることもあります。●相続税対策のために長男の孫を養子縁組
二男は長男家に多く相続できるように仕組んだと思ってしまう。
→確かに相続税対策にはなるが、他の相続人の法定相続分が減ることになる。養子縁組をした時に、他の相続人に「養子縁組したこと」だけでなく、「その目的(次の世代まで財産を守る)」などを知らせておく。
●相続税対策のための生前贈与や生命保険
相続税対策にはなるが、偏った生前贈与や生命保険金の受取人などにしてしまうと差が付く。
→不平等はもめる原因になりやすいため、差が付かないようにする。
●偏った遺言や相続人以外・内縁への遺言
被相続人に対する不信感も生じてしまう。
→公平な内容の遺言であればもめることも少ないが、差が付いてしまうようだと気持ちのうえでわだかまりも残る。被相続人は皆に生前から気持ちを伝えておいたり、遺言書の「付言事項」に思いや感謝の言葉を入れておくとよい。
●執行人の記載のない遺言
名義変更の時などに、財産をもらえない人や少ない人からは実印をもらいづらい。
→遺言執行者の記載があればその遺言執行者が名義変更等ができる。
●不動産が多く現金が少ない
土地を守りたい長男とお金が欲しい二男で意見が食い違う。
→将来の相続税分だけでなく、代償分割までできるだけの現金等を用意しておく。
その他のもめる原因と対策
もめる原因はまだあります。●遺産分割の場で相続人の配偶者などの相続人以外が口をはさむ
相続人の中には「部外者は口をはさむな」と考える人もおり、もめる原因になることも。
→助言を求められることもあるが、招かれない限りは遺産分割は相続人に任せる。
●知らなかった先妻の子や非嫡出子、突然の相続人が存在した
子は同じく相続人の権利があるため、もめる原因に。
→相続人は生前に戸籍謄本を調べることでその存在の有無を確認しておくことができる。できれば被相続人は生前に相続人に知らせておければよい。
●不動産をきょうだいで共有してしまう
今回もめてしまったから同じ割合で共有にした。
→これは目先はよいかもしれないが、将来のもめごとの原因に。宿題を先送りにしただけでなく、次の相続ではいとこ同士が共有になってしまう。今回よりもさらにもめる状況になりかねないため、きょうだいの共有はお勧めできない。
親は子に差を付けたつもりはないものの、「兄は私立だったが自分は公立だった」「兄はいつも新品で自分はおさがりばかり」「弟はいつも可愛がられ、怒られるのはいつも自分だった」など、子は過去までさかのぼって差を感じていて、それが相続の時に爆発して、もめてしまうこともあります。
相続は「財産の奪い合い」ではなく「愛情の奪い合い」と思うことも多いです。愛情があれば財産で差があっても円満にまとまる傾向にあります。やはり生前からの家族全員でのコミュニケーションが一番の対策ではないでしょうか。
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