寝る前のお酒のメリット? 不眠解消法の3割を飲酒が占める日本人
あまり知られていないようですが、日本人は世界一寝酒好きな民族のようです
アルコールには、不安を減らしたり、気持ちを落ち着けて眠りに誘ったりする働きがあります。そのため、世界各地で眠る前にお酒を飲む風習があるようです。欧米では、寝酒としてリキュールや蒸留酒などアルコール度数が高いものが好まれ、寝酒そのものを意味する「ナイト・キャップ」というカクテルまであります。
そして世界的に見ても、日本は特に寝酒が好まれているようです。欧米やアジアの10カ国を比較した調査では、日本人は不眠のために医療機関を受診する割合が極端に少なく、そのかわり不眠を解消するためにアルコールを摂取する割合がダントツに高く、3割を占めるという報告があります。
久留米大学病院の睡眠障害外来を受診した50歳以上の不眠症患者さんのうち、実に8割以上が睡眠薬代わりにお酒を飲んでいた、という調査結果もあります。どうやら日本人には「睡眠薬よりお酒のほうが安全」という思い込みがあるようですが、それは本当でしょうか?
寝る前のお酒のメリット・デメリット…寝つきはよくなるが、睡眠の質は下がる
寝酒を続けていると、アルコール中毒になる危険があります
少量のアルコールを飲むと、寝つきが良くなるのは事実です。アルコールは脳の中で、興奮系の神経伝達物質であるグルタミン酸の働きを抑え、抑制系の神経伝達物質であるギャバの受容体を刺激することで、鎮静や催眠の作用を発揮します。この効果のために、昔から世界中で寝酒が愛好されてきました。
ところが、アルコールは量が増えると、睡眠の質を悪くしてしまいます。体重1kgあたり1gほどの中等量のアルコールでは、睡眠前半の深い睡眠が増えますが、後半には浅い睡眠が増え、夜中に目覚めやすくなります。
さらに、多量のアルコールを毎日飲み続けていると、はじめにあった催眠効果が次第に弱まり、アルコールに対する耐性ができてしまいます。数日後には、飲み始める前よりも睡眠時間が短くなるため、睡眠時間を確保しようとしてお酒の量が増えてしまい、結果としてアルコール依存症になるリスクが高まります。
しばらくお酒を毎日飲んだあと、「これではいけない」と思って急に飲酒を中断すると、一時的に不眠がひどくなります。このときも正しい不眠治療のために、医療機関を受診すればよいのですが、「時間がない」とか「面倒だ」などと思っていると、再びアルコールに依存した生活に陥ってしまいます。
アルコールの飲みすぎが招く睡眠中の頻尿といびき
ビールの飲みすぎで夜中にトイレへ……。睡眠の質が悪くなってしまいます
通常、眠っている間には、おしっこが作られないようにするためのホルモン(抗利尿ホルモン)が分泌されます。しかし、アルコールはこのホルモンの働きを邪魔してしまうため、眠っているうちにもだんだんおしっこが溜まります。睡眠の後半になると、眠り自体が浅くなるので、トイレへ行くために目が覚め、睡眠が分断されてしまうのです。
また、アルコールは舌の筋肉を麻痺させるので、仰向けで眠ったときに舌がのどに落ち込みやすくなります。さらに、鼻の血行が良くなりすぎて、粘膜が腫れて鼻が詰まります。これらが合わさって、鼻からのどにかけての空気の通り道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。いびきをかいているときは、体に酸素を十分に取り込めないので、睡眠が浅くなり中途覚醒が増え、熟睡感が減ってしまいます。
日本酒・ビール・ワインなどお酒の適量目安と休肝日のススメ
アルコールには、ストレスを解消して気分をリラックスさせ、親密な人間関係を作るきっかけとなる効果があります。ですから、飲み方に気をつければ、人生に彩りを加えてくれるはずです。寝つくときにアルコールの血中濃度がゼロであれば、少なくともアルコールの悪影響は防げます。体重60kgの健康な男性の場合、眠る3時間前までに日本酒なら1合、 ビールならロング缶1本、ワインならグラス2杯を限度として楽しみましょう。高齢者や女性の場合は成人男性よりもアルコールの分解能力が弱い傾向があるため、この半分ぐらいが適量とされています。
少なくとも眠るための寝酒はやめて、夕食のときに晩酌としてお酒をたしなむのが良いようです。また、アルコール分解で負担のかかる肝臓のために、週1~2日はお酒を飲まない休肝日を作っておきましょう。
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