人材育成・社員教育

「ジョブ型雇用」とは? メリットや昇進・昇給のための働き方、「日本型雇用」との違いは?

コロナ禍になってから、多くの会社が「社員の流動性」を高めるための組織運営に舵を切り、ジョブ型雇用を採用し始めている。ジョブ型雇用とは何か、ジョブ型雇用の環境下で働く際に必要となる発想転換とは? 人材コンサルタントの小松俊明が解説する。

小松 俊明

執筆者:小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職ガイド

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「ジョブ型雇用」とは? 「解雇されやすくなる」は誤解


2021年、日立製作所、富士通、NTTといった大企業が「ジョブ型雇用」の導入を発表した。富士通は2022年4月をめどに、ジョブ型雇用を一部を除く国内外のグループ企業の11万人に拡大、日立製作所も同年7月に全社員へ拡大すると発表している。

自分の会社は典型的な日本型雇用の会社だったのに、今後ジョブ型雇用に変わるかもしれない、そう感じている人もいるだろう。ジョブ型雇用とは何か、ジョブ型雇用の環境下で働く際に必要な発想転換とはどのようなものか、人材コンサルタントが解説する。
 

「ジョブ型雇用」とは? 「日本型雇用」との違い

企業の視点で、日本型雇用とジョブ型雇用の現実と向き合ってみよう。ジョブ型雇用とは、社員の仕事の役割と責任をより明確にするために、職務内容を明文化することで、それに基づいて必要な人材を採用する制度である。海外企業ではジョブ型雇用が一般的であり、国内でも外資系企業の多くが主に中途採用でジョブ型雇用を実施している。

反面、職務内容を定めないまま新卒社員を一括採用する日本型雇用(メンバーシップ型ということもある)は、日本独自のシステムである。社員の仕事の役割と責任を明確にしたうえでの採用でないため、定期的な異動や昇進がしやすくなる。もちろん職務内容に関する経験や専門性が配属で重視されないわけではないが、その仕事の経験や知識がなくても配属転換を行い、昇進が行われることもある点で、日本型雇用は世界的な水準から見れば、かなりユニークな制度である。終身雇用や年功序列などの考え方との相性もいい。
 

会社にとって日本型雇用のメリットは大きかった

実際日本型雇用にはメリットも多かった。社員の長期雇用は企業に安定をもたらし、人材やノウハウの社外への流出をとどめることになったからだ。

特に20代、30代の若手社員を雇用することに関しては、会社側のメリットが大きい。若手社員は給与テーブルの最低ラインから始まり、それがゆっくり上昇する間、スキルと経験を意欲的に積んで会社に貢献できるように育つ。賃金とスキルの伸びに相関性がある時期であり、伸び盛りの優秀な人材を安い賃金で雇うことができる日本型雇用は、これまでの日本経済発展を支えてきたともいえる。

さらに、会社は組織の事情を優先させて、社員を柔軟に配属転換や転勤させることもできた。これは、雇用した時点で社員の仕事の役割と責任を明確にしていない日本型雇用の特徴であり、会社にとって好都合であった。新しい職場に異動した人が、「まだ右も左もわかりませんが、頑張りますのでよろしくお願いします」とあいさつする光景は、まさに日本的であり、ジョブ型雇用の下、即戦力採用が原則である海外の会社では、あまり見ることはない。
 

なぜ日本型雇用からジョブ型雇用にシフトするのか

ジョブ型雇用のメリットは、社員の仕事の役割と責任が明確で、スキルと経験のある社員が業務にあたっているため管理がしやすく、時間の経過とともに社員の専門性も高まることだ。常に即戦力の社員が業務にあたるから、社員育成の時間や労力、コストなどをあまりかけなくてもいい。

日本型雇用のように、年功序列的に給料を上げていく必要もあまりない。自分が取り組む仕事に対してその対価として給料が決まっているため、同じ仕事をして貢献度も安定していれば、給料はあまり上がらないが、下がることもない。少なくとも、理屈ではそういうことになる。

日本型雇用の企業が多い現状では、40~50代の中高年社員の給料は、20~30代などの若手から中堅社員と比べれば高いことが多く、賃金とスキルの伸びに相関性が薄くなっている。別の言い方をすれば、会社への貢献度に比べて、中高年社員の給料は高くなりすぎていることが多く、会社の負担が大きいのである。日本型雇用からジョブ型雇用にシフトする会社の中には、社員の高齢化やそれに伴う人件費の高騰に耐えられなくなっているケースが少なくないのである。

ジョブ型雇用の職場では、社員の昇進や退職によってポストが空けば、社内公募でそのポストを埋めるか、それができなければ社外から採用する。社員の専門性は高まり、昇給や昇進には、会社への貢献度が高いことが求められる。人材の流動性があることを前提とした制度である。社員からしてみれば、年功序列で給料が上がらないことにはなるが、会社にとっては貢献度の低い社員の給料高騰は起きにくくなる。

コロナ禍で在宅勤務をはじめとした働き方の多様化が進み、社員の仕事の役割と責任をより明確に定義するようになったため、ジョブ型雇用を導入しやすい環境が整ってきた。テレワークが常態化したことでオフィスのスペースも縮小し、副業規定や労働時間、休暇の見直しなども進み、社員の流動化がますます進むことを想定されている。

このような背景により、日本型雇用からジョブ型雇用へのシフトする企業が増えてきているのである。

>>次ページ:ジョブ型雇用は人を幸せにするか? 昇進・昇給のための考え方
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