セクシュアルマイノリティ・同性愛

性の多様性を描くクィア・ドラマの新時代が到来(2ページ目)

2018年は、『弟の夫』『女子的生活』『隣の家族は青く見える』『おっさんずラブ』といった素晴らしいドラマが相次いで放送され、話題を呼び、好評を博しました。そこで今回は、性の多様性を描いたクィア・ドラマの過去、現在、未来という切り口で、お届けしてみたいと思います。

後藤 純一

執筆者:後藤 純一

同性愛ガイド

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2018年に放送された名作クィア・ドラマ(1)『弟の夫』

『弟の夫』

そのすべてに感謝したくなる奇跡のドラマ『弟の夫』。DVD化も決まったようです


2018年3月にNHK BSで放送され、大好評だったため、ゴールデンウィークに(東京レインボープライド「Pride Week」に合わせて?)地上波のNHK総合でも放送された『弟の夫』です。
【あらすじ】
小学生の娘・カナを男手ひとつで育てる弥一のもとに、突然、クマのような外国人・マイクが訪ねて来る。弥一には双子の弟・涼二がいたが、だいぶ前にカナダへ移住し、絶縁状態となっていた。その弟が亡くなったという。マイクは弟の「夫」として、弥一を訪ねて来たのだ。しばらく弥一の家に滞在することになったマイクだが、弥一は同性愛に対する偏見がぬぐえず、戸惑ってしまう……。

まず、全体を通して原作に忠実で、「ちょっと刺激が強すぎるかも? 社会通念に照らしてNGかも?」というシーンもきちんと描かれていて、「忖度」によってカットしなかった作り手には心から拍手を贈りたいと思いました。例えば、弥一がマイクのお風呂上がりの裸を見て思わず目を背けるシーン、マイクがシャツをめくりカナちゃんが無邪気に胸をさわり、弥一が怒るシーン(あんなに大胸筋が動くなんて! マイクを演じた把瑠都さん、さすがは元力士!)、元奥さんが弥一に「ちょっと休憩してく?」と誘うシーンなどです。

昭和のレトロなおうちにふさわしい色調で、まるで文芸大作映画のように美しく、とても丁寧に撮られている様子が窺えましたが、静かな佇まいの中に、ものすごい気迫や挑戦的なメッセージが込められていると感じました。

それはセリフにも表れていて、「ガイジンじゃなくてカナダ人です」、「どっちもハズバンドです」、「カナちゃんのために毎日ご飯つくって掃除して洗濯してる、それは立派なお仕事でしょ?」などなど……ゲイのことだけでなく、世間に蔓延する「普通」という名の圧力と全力で闘っている作品だと思いました。まさに、これこそが「クィア」ということなんです。

異性愛規範をはじめ、世間で「普通」とされている根拠のない規範が、どれだけ人々を苦しめているかということが、カナちゃんの無邪気な反応で浮き彫りになっていきます。子どもたちは無垢で、偏見がなく、同性婚だって自然に受け入れます。けれど、大人たちが寄ってたかって「不都合な真実」だと隠し、ゲイだとか、シングルファザーだとか、性的に奔放な女性とか、「普通」から外れた人々を蔑み、排除していく。自分だっていつマイノリティの側になるかもわからないのに……そういうことが、鮮やかに描かれます。

役者さんも、みなさん素晴らしかったです。特に把瑠都さん。日本にマイクの役をあんなに見事に体現してくれる方がいたなんて、本当にオドロキでした。奇跡的ですよね。体の大きな外国人で、日本語がある程度しゃべれる方ってだけで、貴重なのに、カナちゃんとすぐ打ち解けられるゲイらしい優しさ、愛嬌もにじみ出ていて、素晴らしかったです。「うちにもマイクが訪ねて来てくれたらいいのに!」と思った方、全国に100万人くらいいたんじゃないでしょうか。

総合的に見て、日本のドラマの歴史を変えるような作品だと感じ、きっと年末には(あるいは海外でも今後)賞を獲るのではないかと予想しています。原作漫画を描かれた田亀源五郎さんはもちろん、制作されたスタッフのみなさんにも心から感謝したい気持ちです。

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