糖尿病/糖尿病の原因・基礎知識

自分だけの治療計画とアクションプラン(1)

今年(2012年)4月に米国糖尿病協会と欧州糖尿病協会が共同でまとめた新しい2型糖尿病治療ガイドラインが発表されました。「血糖値」ではなく、「患者」を治療しようという患者中心医療への転換です。

執筆者:河合 勝幸

大きさの比較

大きさの比較。青がHDL、赤がLDL、黄がVLDLです。一番小さくて重いHDLが善玉なんです! 表面のタンパク質構成が違うのでHDLは血管壁をすり抜けられません。

今年(2012年)4月に米国糖尿病協会と欧州糖尿病協会が共同でまとめた新しい2型糖尿病治療ガイドラインが発表されました。
「血糖値」ではなく、「患者」を治療しようという患者中心医療への転換です。

日本の医療はおおむね欧米の周回遅れですから、どのような形でこの患者志向の治療が行われるのか分かりませんが、間違いなく言えることは、患者が治療方針にコミットすることは患者も応分の責任を負うことになります。これからは私たちも治療計画をよく理解しなくてはなりません。

今回の新しい2型糖尿病治療ガイドラインは、ある程度の基礎知識がないと説明が煩雑になってしまうので、次の課題に譲るとして、ここでは糖尿病マネージメントにはどんな計画が必要なのかを解説します。

もちろん、糖尿病治療は担当医が責任を負いますが、その指示を受けることを前提にしても、私たちが知っていた方がいい一般的な数値目標があります。これらの数値目標をいかにして達成するかのアクションプランがないと成り行き任せの治療になってしまいます。

家を建てるときは設計図と工程表に従います。糖尿病治療だって同じことです。医師から治療のための青写真やそれを達成するノウハウなどの提供がなければとてもベストな治療はできません。

これが糖尿病治療のアクションプラン

(米)糖尿病専門誌 Diabetes Care 6月号2012 で発表された新しい2型糖尿病治療ガイドラインが目指しているのは、患者一人ひとりの治療計画のカスタム化です。

40代の人と70代の人では目標とするA1Cが異なって当然です。その指針を具体的に示しました。ただ、数値目標は個人差がありますが、やるべきことはほとんど同じです。つまり、食事、運動、薬、血糖や血圧のモニタリングなどはどんなタイプの糖尿病でも重要な意味をもちます。

また、糖尿病治療は全身に関わる病気の予防や治療そのものですから、定期的に検査する対象も広範囲に及びます。2~3ヵ月の平均血糖値を示すA1C(エーワンシー)や血圧、血中脂質などは定番ですが、年1回や数年に1回チェックする項目もあります。

大きな糖尿病センターで診察を受けている人は、大切なことは定期的に検査されていると思いますが、一般の診療所で糖尿病治療を受けている人は、知識や設備の不足、検査技師の不在などで必要な検査を受けていない可能性があります。

以下のようなチェックポイントは合併症予防において大切なものです。アクションプランの第一は検査項目の再チェックです。

□ A1C(エーワンシー)
過去2~3ヵ月の平均血糖値を示します。糖尿病コントロールの基本となる指標です。
一般にはNGSP値で7%未満を目標としますが、患者の年齢、健康状態、意欲、合併症等に基づいて適切な目標を選ぶことがあります。むしろ、そういうテーラード医療が時代のトレンドです。
日本では過剰なほどこのA1Cをチェックしますが、欧米では目標未達成の人で3ヵ月に1回、目標範囲に収まっている人は6ヵ月に1回程度チェックします。もちろん、治療法を変えた場合はその限りではありません。まずはA1Cの目標を設定しましょう。

□ 血圧
高血圧は心臓病、腎不全、脳卒中の原因になるだけでなく、高血糖と相まって全身の血管にダメージを与えます。
糖尿病患者の指標は収縮期血圧が130mmHg未満、拡張期血圧が80mmHg未満と健常者よりも低い値です。尿タンパク1g/日以上の場合は125mmHg未満/75mmHg未満となります。

□ 血清脂質
悪玉コレステロールLDLが多すぎると動脈硬化が進行します。糖尿病患者に脂質異常症が合併した場合は心血管疾患のリスクがさらに高まるので積極的に治療することになります。

日本の糖尿病患者のコントロール指標は以下のとおりです。
  • LDLコレステロール 120mg/dl未満
  • HDLコレステロール  40mg/dl以上
  • 中性脂肪  150mg/dl未満(早朝空腹時)
    (冠動脈疾患がある場合はLDL 100mg/dl未満)
米国では糖尿病患者のLDLコレステロールは100mg/dl未満で、冠動脈疾患があれば70mg/dl未満とさらにタイトな目標値となります。

足の検査
神経障害のスクリーニングと足潰瘍の予防や早期発見のために必要な検査です。
年1回は検査を受けましょう。神経障害や足の血管障害など高リスクの人はより頻繁に受ける必要があります。

□ 尿中アルブミン排泄量の測定
糖尿病を発症すると網膜症で観察されるような血管変化が腎糸球体血管にも起こります。
その構造変化は尿中アルブミン排泄量の増加で判断できます。
随時尿でアルブミン(mg)/クレアチニン(g)の測定をします。正常尿は30mg/gクレアチニン未満です。
全ての2型糖尿病患者は年1回は採尿してこの検査を行うよう勧められています。1型糖尿病では発症後5年以上になると検査対象になります。

□ eGFR(推算糸球体濾過率)
慢性腎臓病の早期発見のために行います。
eGFRが60ml/分/1.73m2以上が目標です。年1回は採血してもらいましょう。

□ 散瞳して行う眼底検査
糖尿病網膜症の診断や治療、血管新生緑内障や白内障の早期発見のため、正常でも年1回は眼科医による定期診察が必要です。
2型糖尿病では発症時期が不明なので、糖尿病治療開始前、3ヵ月、6ヵ月後にも眼底検査を受けましょう。インスリンで急激に血糖値を下げると出血の危険があります。
このことは患者自身が問題意識を持って糖尿病担当医に確認するようにしましょう。2型糖尿病が診断された時にすでに合併症があるような人は眼底がとても心配です。

PAD(末梢動脈性疾患)
50歳以上の糖尿病患者は下肢閉塞性動脈硬化症を早期に発見するためにABI(下肢-上腕血圧比)を検査する必要があります。これは足首と上腕の血圧を比べたもので、0.91~1.30あれば正常、0.9以下は末梢動脈性疾患の可能性を示唆します。検査は正常範囲に収まっていれば5年に1回程度です。


さて、医療チームが患者一人ひとりにこれらの目標を設定してくれたら、毎日のケアは患者自身で行わなければなりません。次回はそのノウハウを紹介しましょう。
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