製品戦略の2つのアプローチ
製品戦略には、プロダクトアウトとマーケットインの2つのタイプがある
■プロダクトアウト
製品開発には大きく分けて2つのアプローチがあります。1つは顧客の表面化していないニーズを推測し、これまでの常識では考えられなかった製品やサービスを市場に投入していくパターン。このパターンの製品開発は、企業の技術力やアイデア主導で進められ、「プロダクトアウト」のマーケティングと呼ばれています。
たとえば、1979年にソニーが開発し一世を風靡したウォークマンがプロダクトアウトによる製品開発の好事例でしょう。ウォークマン自体は消費者が意識的に望んでいた結果開発されたものではなく、ソニーの技術力やアイデアが、それまで家でしか聞けなかった音楽を小型の携帯音楽プレーヤーとして外に持ち出すという夢のようなシーンを現実のものにした画期的な製品だからです。ウォークマンに限らず、ソニーはその後も手のひらサイズのビデオカメラであるハンディカムや高性能ゲーム機であるPlaystationなど、時代を先取りした製品を次々投入し、自ら市場を創造するマーケティングで成功を収めてきた典型的な「プロダクトアウト」タイプの企業とも言えます。
■マーケットイン
そして、もう1つは顧客のニーズを徹底的に分析し、市場で求められている製品やサービスを開発して市場に投入していくパターンです。このパターンの製品開発は、顧客の必要性や欲求を入念に洗い出して必要なものを提供するという市場中心主義で進められ、「マーケットイン」のマーケティングと呼ばれています。
このタイプの製品戦略の事例としては、アサヒ飲料のワンダモーニングショットが挙げられます。アサヒ飲料は徹底した市場調査で現代のビジネスパーソンの8割が朝型生活願望を持ち、しかも朝の必須アイテムは「ネット」「メール」「缶コーヒー」という事実を明らかにします。加えて3人に1人が会社で朝食を取る「席朝族(せきあさぞく)」で、朝食にかけている時間はたったの8分ほどと、現代のビジネスパーソンの忙しい朝の実態が浮き彫りになったのです。
そこで、アサヒ飲料はこれまでになかった朝専用缶コーヒーの開発に着手し、朝の通勤時間に大々的なサンプリングを行うなど、適切なマーケティング戦略を実行に移します。結果として、ワンダモーニングショットは爆発的なヒットを記録し、発売から10年以上経過した現在でも年間3000万箱以上売れるなど、浮き沈みの激しい飲料業界でそのブランドを不動のものにしています。