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株などの譲渡所得がある人は確定申告書Bを使う
確定申告は会社員にとってなじみが薄いものですが、医療費控除や住宅ローン控除(会社員は1年目のみ)を申告するケースは多いでしょう。今回は、会社員(他の事業所得や雑所得などがない)が「確定申告書B」を作成する方法をご紹介します。会社員が「確定申告書B」を利用するのは、主には株などの譲渡所得がある場合です(※)。
(※)株の譲渡所得があっても、証券会社の特定口座で源泉徴収ありのみを利用していれば、確定申告は不要です。
申告書Bの第一表・第二表、申告書第三表(分離課税用)の3種類の用紙に記入していきます(それぞれリンク先で書式をダウンロードできます)。会社から配られた源泉徴収票も手元に用意しておきましょう。
源泉徴収票の見方をおさらい
上の図は、12月から1月頃に会社から配られる「源泉徴収票」です。これは、会社員にとって税金の計算報告書のようなもの。確定申告をする時に必要です。この中でも、確定申告書に必要な箇所に【A】~【H】の印をつけました。まずはこれらの数字の意味を押さえましょう。
【A】支払金額
1年間に支払われた給与の合計額。税込み年収
【B】給与所得控除後の金額
給与所得控除(会社員の必要経費のようなもの。収入金額から自動的に計算される)を支払金額から差し引いた金額
【C】所得控除の額の合計額
配偶者控除や扶養控除、社会保険料控除など控除額の合計
【D】源泉徴収税額
年末調整で計算され、源泉徴収で納めた所得税額
【E】社会保険料等の金額
給与から天引きされた社会保険料(厚生年金、健康保険、雇用保険等)。
※個人型確定拠出年金(iDeCo)などの小規模企業共済等掛金は、内書きとして記入
【F】生命保険料の控除額
生命保険料や個人年金保険料を支払った場合の控除額。最大12万円(平成24年から。平成23年までは最大10万円)
【G】地震保険料の控除額
対象となる地震保険の保険料を支払った場合の控除額。最大5万円
【H】支払者の氏名又は名称
給与を支払った会社名など
源泉徴収票にこれらの数字が見つかりましたか? では実際に「確定申告書B」を作成していきましょう。
確定申告書B 第一表の書き方
確定申告書B、はじめに第一表から作成していきましょう(下図参照)。上の源泉徴収票サンプルの【A】~【H】と対応させてあります。自分の源泉徴収票を手元において、見比べながら記入してください。
【A】「支払金額」 ⇒ 「収入金額等 給与(カ)」
(源泉徴収票のA「支払金額」の金額を、確定申告書「収入金額等 給与(カ)」に記入します)
給与収入以外にも収入(事業や年金や配当金など)があった場合は、他の収入、および下の所得欄も記入してください。
【B】「給与所得控除後の金額」 ⇒ 「所得金額 給与(6)」
他に所得がない場合(株の譲渡所得などは除く)は、「所得金額 合計(12)」にも記入します。その他の所得がある場合はその所得を記入の上、「合計金額(12)」を計算し記入してください。
【C】「所得控除の額の合計額」 ⇒ 「所得から差し引かれる金額 合計(29)」
所得から差し引かれる金額(13)から(24)までに変更がない場合のみ、「(13)から(24)までの計 (25)」と「合計 (29)」に転記。変更がある場合は変更分((13)から(24)まで)の控除額を記入し、その他の控除との合計額を計算して(25)に記入
(26)から(28)も変更なければ合計(29)にも記入
【D】「源泉徴収税額」 ⇒ 「税金の計算 源泉徴収税額(48)」
【E】「社会保険料等の金額」 ⇒ 「所得から差し引かれる金額 社会保険料控除(13)」
源泉徴収票の「【E】社会保険料等の金額」欄に内書きで小規模企業共済等掛金の額が記載されている場合は、内書きの金額を除いた金額を「社会保険料控除(13)」に、内書きの金額は「小規模企業共済等掛金控除(14)」に記入します。
【F】生命保険料の控除額」 ⇒ 「所得から差し引かれる金額 生命保険料控除(15)」
新たに申告する場合は、支払った生命保険料から控除を計算した金額(最大12万円)
【G】「地震保険料の控除額」 ⇒ 「所得から差し引かれる金額 地震保険料控除(16)」
新たに申告する場合は、支払った地震保険料から控除を計算した金額(最大5万円)
新たに申請する控除も記入する
また、新たに控除を申請する場合は、計算された控除金額を所定の記入欄に記入します。■医療費控除
c 「所得から差し引かれる金額 医療費控除(27)」
【従来の医療費控除の場合】
作成した「医療費控除の明細書」で計算された金額を記入。
「区分」の項目には何も記入しません。
【セルフメディケーション税制による医療費控除の特例の場合】
作成した「セルフメディケーション税制の明細書」で計算された金額を記入。
「区分」の項目に「1」と記入。
※平成 29 年分の確定申告から、領収書の提出の代わりに明細書の添付が必要となります。明細書を先に作成しておきましょう。
■寄附金控除(ふるさと納税など)
f 「所得から差し引かれる金額 寄附金控除(28)」
※ワンストップ特例制度の申請書を提出している場合
1)寄附した自治体が5か所までであり、他に確定申告をする理由がなければ、確定申告は不要です。
2)確定申告をする方は、ワンストップ特例制度の適用を受けることができません。寄附金控除を受けるためには、全てのふるさと納税を含めて控除金額を計算し、記入する必要があります。
■住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)
d 「税金の計算 住宅借入金等特別控除(34)」
別途『(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書』で計算した金額を記入します。
■住宅耐震改修特別控除・住宅特定改修特別税額控除・認定長期優良住宅新築等特別税額控除
e 「税金の計算 住宅耐震改修特別控除……(38)~(40)」
区分に指定の数字を記入。別途「住宅耐震改修特別控除額・住宅特定改修特別税額控除額の計算明細書」で計算した金額を記入します。
■マイナンバーも記入
平成28年分以降の確定申告からマイナンバー(個人番号)を記入することになっています。一番上の欄に記入しましょう。
税額は第三表で計算したものを転記する
株の譲渡所得などは分離課税といって、給与所得などとは別に個別に税額を計算します。この計算は、「第三表」と呼ばれる申告書で計算されます。この第三表で分離課税分の所得税を加味して、最終税額が決定されるわけですね。この計算された結果を、またこの第一表に転記します(第三表の書き方はこちらを参照)。■税額
a 「税金の計算 上の(30)に対する税額又は第三表の(91) (31)」
第三表の(91)で計算された税額をこちらに転記します
■実際に収める(還付される)税額
b 「差引所得税額(41)」
「基準所得税額(43)」
最終的に計算された税額を記入します
「復興特別所得税(44)」
復興特別所得税(43×2.1%)を記入します
「所得税及び復興特別所得税の額(45)」
(43)と(44)を足したものを記入します
「申告納税額(49)」
源泉徴収税があれば(48)に記入し(45)から(48)を引いたものを記入します
「第3期分の税額(51)(52)」
税務署より予定納税額の通知書などが届いてなければ、予定納税額(50)の記入は不要です。(49)の金額を黒字なら100円未満の端数を切り捨てた数字を(51)に、赤字の場合はそのままの金額を(52)に記入します。
最終的に更に収める税額(51)または還付される税額(52)がこちらに計算されます。
確定申告書B 第二表の書き方
続いて第二表を作成します。書くことは第一表と同様、まずは源泉徴収票から転記しましょう。【A】支払金額 ⇒ 「○所得の内訳 収入金額」
源泉徴収票のA「支払金額」の金額を、確定申告書「所得の内訳 収入金額」に記入します。給与以外にも所得がある場合は、所得の内訳欄に所得を記入します。
【D】源泉徴収税額 ⇒ 「○所得の内訳 源泉徴収税額」
源泉徴収税額の合計額の欄にも記入。他に源泉徴収された所得(雑所得や配当所得など)がある場合はそれらの金額も所得の内訳欄に記入し、合計額を「○所得の内訳 源泉徴収税額」の欄に記入します。
【E】社会保険料等の金額 ⇒ 「○所得から差し引かれる金額に関する事項 (13)社会保険料控除」
源泉徴収票に記入されている「社会保険料等の金額」を「源泉徴収分」として記入します。その他にも支払った社会保険料(国民健康保険など)があれば、それも記入して合計を合計欄に記入します。
ただし、源泉徴収票の社会保険料等の金額に、内書きで小規模企業共済等掛金の額が記載されている場合は、内書きの金額を除いた金額を「(13)社会保険料控除」に記入し、小規模企業共済等掛金の額を「(14)小規模企業共済等掛金控除」の欄に「源泉徴収票分」として記入します。
【H】支払者の氏名又は名称 ⇒ 「○所得の内訳 支払者の氏名・名称」
給与を受け取った会社名などを記入します。
保険料など詳しい情報も記入
第二表は住民税などを計算する時に必要となる情報を記入します。所得税と住民税は控除の計算などで少し計算方法が違うからです。源泉徴収票に書かれているもの以外にも記入する必要があります。■生命保険料控除の保険料
ア 「○保険料控除等に関する事項 (15)生命保険料控除」
控除額ではなく、実際に支払った保険料を記入します。
■地震保険料控除の保険料
イ 「○所保険料控除等に関する事項 (16)地震保険料控除」
控除額ではなく、実際に支払った保険料を記入します。
■本人の情報
ウ「〇本人に関する事項(17)~(20)」
本人に関する情報(寡婦、ひとり親、勤労学生、障害者等)を記入します。
■配偶者や扶養者の情報
エ 「○配偶者や親族に関する事項 (20)~(23)」
控除対象となる家族の氏名、生年月日などを記入します。また、マイナンバー記入欄がありますが、年末調整を受けており配偶者(特別)控除や扶養控除に変更がない場合は、マイナンバーの記入を省略することができます。
■寄附金控除の情報
オ「○寄附金控除に関する事項 (28)」
ふるさと納税などで寄付をした寄附先の名称(代表1つで可)、支払った寄附金を記入します。
カ「○住民税・事業税に関する事項」
ふるさと納税などの寄付金控除を記入します。実際に支払った寄附金を記入します。ふるさと納税分は「都道府県、市区町村分」の欄に記入します。
1)寄附した自治体が5か所までであり、他に確定申告をする理由がなければ、確定申告は不要です。
2)確定申告をする方は、ワンストップ特例制度の適用を受けることができません。寄附金控除を受けるためには、全てのふるさと納税を含めて控除金額を計算し、記入する必要があります。
キ「配偶者・親族のうち別居の者」
別居している配偶者や親族がいる場合は名前と住所を記入します。
申告書第三表(分離課税用)の書き方
続いて「申告書第三表(分離課税用)」を作成します。【B】給与所得控除後の金額 ⇒ 「税金の計算 総合課税の合計額(12)」
申告書B第一表の(12)の金額を転記します。所得が給与だけの場合は、源泉徴収票の【B】「給与所得控除後の金額」となります。
【C】所得控除の額の合計額 ⇒ 「税金の計算 所得から差し引かれる金額(29)」
申告書B第一表の(29)の金額を転記します。所得控除が年末調整から変更がない場合は、源泉徴収票の【C】「所得控除の額の合計額」となります。
分離課税分の所得などを転記
「第三表(分離課税用)」は、給与所得や一時所得などの総合課税のものと、株の譲渡所得などの分離課税それぞれの税額を計算して、最終的な税額を決めるための用紙となります。ですので、源泉徴収票や申告書B第一表から転記したのは、総合課税のほうの給与所得情報。次に、分離課税対象の株の譲渡所得の内容を記入します。「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」から転記します。
(「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」の書き方などについては、こちらをご覧ください)
記入するところは、J「収入金額 分離課税」「所得金額 分離課税」、K「税金の計算」の該当部分、L「税金の計算」の該当部分です。
最後に税額の計算をして作成完了!
以上で第三表への転記が終了です。最後に税額をだしておきましょう。P「課税される所得金額(12)対応分(75)」は、Bの金額からCの金額を引いて出します(BよりCのほうが高額の場合は、引き切れていない分をKの所得金額から引きます)。
このPの金額から税額を計算し(Pの金額から、 総合課税の所得金額に対する税額の計算表より計算)、Q「税金の計算(83)」に記入します。
続いてQ「税金の計算(83)」とL「税金の計算(84)から(90)」までの合計をR「税金の計算(91)」に記入します。
この合計された金額が最終的に決まった税額になります。申告書B第一表のa「税金の計算(31)」にこの金額を書きましょう。これで第一表のb「納める税金・還付される税金(51・52)」が計算できます。
分離課税の申告は、第三表の作成があってかなり複雑なようにみえますが、やっていることは第一表で所得税の計算、第二表で住民税用の詳細の情報、第三表で分離課税との合算ということです。
マイナンバーの記入を忘れずに(平成28年分の確定申告から)
平成28年1月より運用が開始されているマイナンバー(個人番号)ですが、平成28年分の確定申告書類から記入が必要になります。本人はもちろん、控除対象配偶者や扶養親族も必要になりますので、準備してから書類を作成しましょう(年末調整を受けており配偶者(特別)控除や扶養控除に変更がない場合は、マイナンバー記入の省略可)。確定申告は面倒、なんて思わずに、税金の勉強をしているつもりで申告書の記入にトライしてみてください。