タイムリミットまで、あと10年!2030年SDGs達成へのヒント

今、各方面から注目を集めているSDGs。しかし、その達成期限の2030年までには、あと10年しか残されていません。限られた時間のなかで、どうすればSDGsを達成できるのか。日本のSDGsの現状やキーポイントについて、「STOP! 食品ロス」プロジェクトのアドバイザリーボードを務める、三菱UFJリサーチ&コンサルティングプリンシパル・サステナビリティ・ストラテジストの吉高まりさんに解説してもらいます。また、SDGsへの貢献も見据えたESG経営を推進する不二製油グループ本社 ESG経営グループCSRチームの皆さんにも、話を聞きました。

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今、なぜSDGsが注目されているのか?

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「SDGs」という言葉を耳にしたことがある人は多いでしょう。SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」にて、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で採択された、全加盟国が2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットのことです。

近年、ビジネスシーンにおいても、SDGsがますます注目されるようになっています。その背景には、どんな理由があるのでしょうか? 「STOP! 食品ロス」プロジェクトのアドバイザリーボードの一人で、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジストの吉高まりさんに解説してもらいました。

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三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 プリンシパル・サステナビリティ・ストラテジスト 吉高まりさん

吉高さん(以下、敬称略)「企業がその存在意義や価値を発信する相手として、投資家などの金融機関が、さまざまなステークホルダーのなかでも、特に重要な位置を占めてきています。投資家は、2008年のリーマン・ショック以降、短期的な収益を追い求め投資することへの反省をふまえ、さらに気候変動や現在のコロナ禍のような予期することが難しいさまざまなリスクに備えるためにも、より中長期の視点で企業の価値を測る方向へとシフトし始めているのです。

その指針となったのが、2006年に国連が採択した責任投資原則(PRI)で、財務以外の、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)などの非財務情報で企業価値を評価していこうというガイドラインです。これに基づいて行われる「ESG投資」は、PRIに署名した世界中の多くの金融機関によって推進されています。

企業をESGで評価する考え方として、SDGsを指標として採用する場合もあります。それは、SDGsが達成される2030年の社会に向けて、企業が本業を通じて社会課題を解決していくビジネスを創造し、企業価値の向上を図ることが期待されているからなのです」

2020年SDGs達成度ランキング、日本は17位

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国連でSDGsが国際目標として採択された2015年の翌2016年以降、持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)とベルテルスマン財団が、毎年、「持続可能な開発レポート(Sustainable Development Report)」を作成しています。その2020年版によれば、166カ国を対象とした世界のSDGsランキングで、日本は17位にランクイン。日本が取り組むSDGsにおいて、特に課題とされているのは、どんなことなのでしょうか?

吉高「このレポートで、日本の達成度が低いとみなされているのは、目標5『ジェンダー平等を実現しよう』、目標13『気候変動に具体的な対策を』、目標14『海の豊かさを守ろう』、目標15『陸の豊かさも守ろう』、目標17『パートナーシップで目標を達成しよう』の5つのゴールです。もっとも、これらの5つのゴールについては、SDGs達成に向けた日本の中長期的な国家戦略「SDGs実施指針改定版」の8つの優先課題の中にも、すでに取り込まれています。ですから、歩みを止めず、これからも取組を続けていくことが重要でしょう」

2020年度版のレポートでは、世界のSDGsランキングの上位15カ国までを欧州が占め、トップ3にいたっては北欧の国ばかりです。日本は前年より、2つ順位を下げました。

吉高「『持続可能な開発レポート(Sustainable Development Report)』のランキングは、定量的に測ろうとしていますが、絶対的な評価ではありません。各国に事情があり、基準をどこに設けるかによって、評価もガラリと変わってきます。だからこそ、ランキングの順位などに一喜一憂せず、それぞれの立場で役割を果たしていくことが、SDGs達成への確かな一歩となるのです」

SDGs達成の期限まで、あと10年。キーポイントは?

残り10年でSDGsを達成するためには、重要なポイントがいくつかあります。そのヒントを吉高さんに教えてもらいました。

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吉高「各国政府の財政頼みでは、SDGsを達成することはできません。そこで急速に拡大しているのが、持続可能な社会を実現するための金融『サステナブル・ファイナンス』です。これには前述のESG投資のほか、サステナブルな融資や保険など、幅広い金融サービスが含まれます。

そして、『サステナブル・ファイナンス』の領域において、特に今世界的に重視されているのが、人権、気候変動、水を含む自然資源の3つの社会課題です。こうした課題について認識を高め、可能な範囲で行動に移していくことが、個人にも企業にも求められます。企業であれば、R&D(研究開発)への投資ESG経営の推進など、具体的な行動の例として挙げられるでしょう」

最近では、実際にESG経営を推進し、成果を出している企業も増えています。不二製油グループも、そうした企業の1社です。不二製油グループ本社株式会社 CEO補佐の河口真理子さん、ESG経営グループの平松義章さん、同グループCSRチームの増田明子さんに、ESG経営推進の取組について伺いました。

増田さん(以下、敬称略)「不二製油グループ本社は、1950年に大阪で創業した、食品素材メーカーです。パーム、カカオ、大豆を主原料として、さまざまな食品素材を開発・製造し、食品メーカーや外食店、コンビニエンスストアや小売店などに販売しています。

不二製油グループのESG経営では、『ESG経営の重点テーマ(マテリアリティ)』を設定し、テーマごとに推進責任者を決め、各社・各部門において取組を進めます。その中でも、今回は「サステナブル調達」と「フードロス削減」について紹介します」

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●サステナブル調達(パーム油)

増田『パーム油のサステナブル調達』を例に挙げると、森林破壊ゼロ・泥炭地*1開発ゼロ・搾取ゼロという最終目標に向け、『森林破壊防止』、『搾取防止』という中長期目標も立てながら、搾油工場および農園までのトレーサビリティ(追跡可能性)の向上やサプライチェーン改善活動などに取り組んでいます。実際、2019年度までに、搾油工場までのトレーサビリティ 100%を実現しました。今後こうした動きをさらに進めることで、マレーシアやインドネシアなどの原産地の環境破壊につながる開発や、過酷な労働にかかわって調達された主原料は一切使用しないという姿勢を明らかにするとともに、SDGsの目標8『働きがいも経済成長も』、目標12『つくる責任つかう責任』、目標13『気候変動に具体的な対策を』、目標15『陸の豊かさも守ろう』といったゴール達成に貢献できると考えています」

●フードロスの削減

増田「SDGsの目標12『つくる責任つかう責任』につながるマテリアリティ、『フードロスの削減』に関しては、当社製品はもちろん、当社製品を使用して作られるお客様商品についても、少しでも賞味期限を延ばせるよう、R&Dの部門が中心となって、技術開発に取り組んでいます。そのほか、販売余剰になった食品を再加工することなども、取組の一つです。一例としては、販売余剰の焼き立ての食事パン*2を調理パンに再加工するための素材を提案・提供しています」

*1 植物が不完全に分解して堆積した一種の有機質土壌のことで、炭素が多く含まれており、乾燥・分解することで、二酸化炭素を放出する。

*2 不二製油グループでは、そのまま食べたり、好みの具材を一緒にサンドしたり乗せて食べたりといろいろな食べ方ができる、食パンやバターロール、フランスパンなどをこう定義している。

販売余剰になったフランスパン

販売余剰になったフランスパン

植物性食品素材で再加工した、羽根つきゴルゴンゾーラの惣菜パン

植物性食品素材で再加工した、羽根つきゴルゴンゾーラの惣菜パン


平松さん(以下、敬称略)「一方で生産工程においては、製品の取り違えや混入が起きると、場合によっては、製品の廃棄が生じることになります。そうしたことを避けるために、生産管理マニュアルの整備や設備設計における工夫を行なっています」

ESG経営を推進する企業は、今では珍しくないものの、確実に実績を挙げている企業はまだ少ないのが実情です。不二製油グループが、ESG経営を推進していく上で大切にしていることは何でしょうか?

河口さん(以下、敬称略)「B to Bの食品素材メーカーである不二製油グループは、原材料を調達して製品化し、お客さまの食品メーカーに提供する立場です。つまり、原材料のサステナビリティを担保することは、重要な使命の一つだといえます。

また、パーム、カカオの調達は森林破壊や人権侵害に結びつけられやすい側面があり、特に欧米の投資家や企業に対して、良好な関係を築くと同時に競争力を維持し、企業としてのバリューを高めていくうえでは、早急に課題を解決しなければなりません。さらに、最近注目を集めている代替肉市場の一つであり、不二製油グループはパイオニアといえる大豆たん白の事業は、大豆を搾油した後廃棄される脱脂大豆に栄養価の高いたん白質が多量に含まれ、大豆たん白として活用することに着目したことから始まっています。これも製造工程のフードロス削減であり、かつ原材料を無駄なく活用するアップサイクルでもあるわけです。

原材料に対するこうした危機感と事業の社会性、そして『人のために働く』ということをずっと言い続けていた社長が見据える方向性が合致し、さらに不二製油グループ憲法をふまえて『社会課題に取り組まないと、事業そのものが成り立たない』と多くの社員が理解することによって、ESG経営が進められてきました。海外のサステナビリティで先行している会社を買収するなどしてグループ会社化し、ESG経営に積極的な企業風土を取り込んでいることも現在の推進力に繋がっています」

今、私たちができること、求められていることは?

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SDGs、そしてその目標12『つくる責任つかう責任』につながる食品ロスの削減は、各国の政府だけではく、自治体、企業、NPOなどの団体に加え、すべての人々が当事者として行動することで、初めて達成の可能性が生まれるものです。それでは、私たちに何ができ、どんなことが求められているのでしょうか?

増田「こうした仕事に就いていることもあり、コストとの兼ね合いはありますが、食資源保全に配慮した食料選択を心がけたいです。国際機関、国、企業、個人、それぞれが、自分の立場でできることを少しずつ行動に移していけば、SDGsの達成が近付くのではないでしょうか」

平松「SDGs達成に貢献する商品は価格が割高になりがちで、そうすると、日本ではなかなか手に取ってもらえません。一方、欧州では、たとえ価格が割高であっても、そうした商品を購入する層が一定数います。それは、幼少時からの教育によるものだと考えています。昨今では、日本の義務教育でも、SDGsについて学ぶようになりました。こうした教育をきっかけに、一人ひとりの意識改革が継続されていくことが重要だと考えています」

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河口「まとめ買いは、本当におトクでしょうか? 使い切れずに捨ててしまえば、結局、損をすることになります。安全性は勿論大事ですが、食べ物を賞味期限をみて機械的に捨ててしまっていませんか? 食べ物はそもそも命あるもの。食べるということは命をいただいているということです。高級食材は、ほかの食材よりも多くの資源を必要とします。高級食材じゃなくてもだしのきいたお味噌汁に炊き立てのご飯でも十分に幸せを感じませんか?私たち消費者が『食』に関する価値観をあらゆる場面で一度冷静に考え、問い直してみることが、食品ロスの削減やSDGsの実現に大切なことかもしれません」

吉高「今日よりも明日、現在よりも将来のほうが、価値が上がっている。そこから逆算して、今すべきことを考えるのが、ESG経営やSDGsの世界です。ところが、現実の世界では、多くの人が、将来の価値よりも現在の価値にとらわれがちです。その結果、将来の損害にまで考えが及ばず、現在、さまざまなロスを生み出しています。まずは将来のリスクについて知ること、そしてそれを身近に感じることが、SDGs達成への第一歩となるはずです。

食品ロスの削減に関して、データを見せられただけでは、人の心は、行動は変えられません。食べ物がどこから来るのか、そのためにいくらお金がかかり、どんな人の苦労やプロセスを経て来ているのか、そんなことを家族や友人たちと話し合う。そこで食物の価値についてあらためて考えることで、一人ひとりの意識に変化が生まれる気がします」

>>環境省「食品ロスポータルサイト」