生ごみは「ごみ」じゃない!?地域で取り組む食の循環

野菜や果物の皮や食べ残し、消費期限の過ぎてしまった食べ物など、普段の暮らしの中で出てしまう生ごみ。実は、その生ごみを有効活用する方法があるのです。今回は、家庭や地域コミュニティで、生ごみを資源として活用している事例を紹介しましょう。

提供:STOP!食ロス

生ごみで野菜をつくる! コンポストがつくる食循環

現在、日本では年間約612万トン*1の食品ロスが生じていますが、その約46%は家庭から出ています。家庭では、食材を余らせない買い方や調理の工夫、賞味期限/消費期限の正しい理解*2など、まずは食品ロスを出さないための習慣をつくることが大切ですが、それでも出てしまった生ごみを活用する方法が、今注目されています。それは、家庭から出る生ごみや落ち葉などを発酵・分解させてつくる「コンポスト(堆肥)」。環境への意識の高まりから、家庭でできる取り組みの一つとして大きな話題になっています。

*1 平成29年度推計(環境省)
*2 賞味期限…品質が保持されおいしく食べることができる期限。/消費期限…腐敗などが起こらず品質が劣化しないとされる期限。

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食品ロスとは、まだ食べることができるのに廃棄される食品のこと。国連食糧農業機関(FAO)の定義によると、生産・貯蔵・加工・食品製造・流通の過程で発生する「Food Loss」と、小売・外食・家庭から発生する「Food Waste」の大きく2つに分けられます。


「生ごみからつくるコンポストは、多様な食物の栄養を含むバランスのよい土になります。そして、その土を使って育てる野菜は、味がしっかりして、甘みが強く香高くなるのです」

そう語るのは、20年以上コンポストを普及させる活動に取り組んでいるたいら由以子さん。各家庭の生ごみを堆肥化させて栄養価の高い土をつくり、それで野菜を育てることで化学肥料を使わない野菜が手軽に食卓に並ぶ。そうした社会を実現させるために、コンポストの開発から生活圏である半径2km単位での食循環を目指してNPOを立ち上げるなど、都市型コンポスト活動の普及に努めています。

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LFCコンポスト 代表/コンポストトレーナー たいら由以子さん

「昨年、長年の経験で蓄積した技術を詰め込んだ『LFCコンポスト』を発売し、1年間で1万2000人もの方がコンポスト活動をスタートしてくれました。中には、生ごみはごみではなく資源なのだと実感したり、家庭菜園を始めたりする人もいたようです」

コンポスト活動を始めた1万2000世帯。それだけの家庭から出る生ごみが減ると、約10万人が1日13時間程度エアコンを止めるくらいのCO2削減効果があるそうです。たいらさんは、コンポスト活動を始めた方へのサポートも徹底し、毎日2000人以上の人にSNSを使って情報を発信しているとのこと。

「各家庭で行えるコンポスト活動によって生ごみが減り、CO2の削減につながる。さらに、栄養価の高い土で育てる野菜を食べれば、体にもいい。1日1分のエコロジーが食ロス問題だけでなく、パブリックヘルスにもつながる。そんな社会を私たちは目指しています」

>>生ごみから美味しい野菜をつくろう「LFC コンポスト」

コンポスト活動を始めるためには、生ごみと資材をいれるコンポスターが必要です。自宅で使いやすい種類のものを選んだら、肉や魚、野菜、ご飯などのコンポストに入れられる材料を確認しながらごみを分別し、注意点をよく読んでから始めましょう。

>>「コンポスト」について詳しく

おいしいお米や野菜の秘密は生ごみからつくった「土魂壌」

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土魂壌(どこんじょう)堆肥、液肥、園芸用培土

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池田町ショップ「こっぽい屋」


福井県の中央部に位置する池田町。この町では2002年から「食Uターン事業」を立ち上げ、家庭の生ごみと牛ふん、もみ殻を混ぜてコンポストをつくる活動を行なってきました。この事業を立ち上げた池田町副町長の溝口淳さんに「食Uターン事業」について詳しく伺ってみました。

「食Uターン事業では、週に3回各家庭から『食品資源(生ごみ)』を集め、牛ふんともみ殻と混ぜて年間約350トンの堆肥をつくっています。その堆肥は『土魂壌』という商品にして販売し、池田町の農家さんは、この『土魂壌』をつくってお米や野菜をつくっています」

池田町では、以前から行っていた堆肥作りの質を向上するため、生ごみの堆肥化を行える堆肥センターが建設されました。また、ちょうどそのころ、地元の女性たちが家庭菜園でつくった野菜がアンテナショップ「こっぽい屋」で人気が出始めており、消費者の期待に応える形で有機農業に力を入れていました。そうして、生ごみを生かした堆肥づくりと、その土を使って行う有機農業によって、循環型農業の構築が始まったのです。

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食Uターン事業の生ごみ回収の様子

「食Uターン事業」の面白いところは、各家庭から出る食品資源を回収するのを町民からなる「環境Uフレンズ」というNPO団体が担っていること。

「現在『環境Uフレンズ』には、町民の3%にあたる約80人のメンバーがいます。食品資源の回収は週に3回、約80kmの距離を走って60カ所の集積所を周るのですが、それを2人1組の交代制で担ってくれています」

当初は、町役場の職員や主婦や一部の農家が中心でした。しかし「生ごみ集め」という活動を、楽しみながら進めることで、その輪は、中高年の男性や地域の観光会社の若い社員さんなど、町民の人たちにも広がったというのです。

また、「食Uターン事業」は、生ごみを減らし、品質のよい堆肥をつくる以外にも効果を生み出しました。それが、町民たちの環境に対する意識の変化です。

「この事業の始まりは、ごみを減らすことが目的ではなく、よい堆肥をつくりたいといった農業目的でした。けれど、この活動がメディアに取り上げられることで町民たちが町を誇りに感じたり、農業だけでなく、自然や景観に目を向けたりするようになったのです」

「食品ロス問題に付随して食料自給率を上げるという話がありますが、そのためには自分の家の食卓を見つめ直すことが大切だと思っています。池田町には農家がたくさんいるので、食品資源(生ごみ)を活用した良質な土でおいしいお米や野菜をつくり、各家庭の食卓に届ける。食べる側とつくる側の心がつながるような社会をこれからも我々は目指します」

>>福井県池田町の「食Uターン事業」

家庭で行える食品ロス削減活動が環境への意識を変える

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たいらさんが普及活動を行なっている各家庭で行えるコンポストや、池田町のように町ぐるみで行う生ごみの堆肥化。このような活動は、全国、全世界に広がっていけば、環境負荷と処理費用がかかる生ごみを減らすのに有効な方法です。しかし、現状では、それらの活動が十分に認知されていないと、京都大学大学院地球環境学堂の准教授、浅利美鈴さんは語ります。

「コンポストのように生ごみを分別し、焼却とは別の方法で処理することは大変意義のある活動ですが、まだ一部の熱心な人しか取り組めていないという印象があります。特にコンポストは、各家庭で細々と行なっているイメージがありますが、社会全体で取り組むことができれば、より大きな効果が生み出せると思うのです」

コンポスト活動を普及させるために必要なのは、多くの人が、生ごみは「ごみ」ではなく「資源」だと意識を変えること。そして、そのような意識の変化は、たいらさんの活動や池田町のような町ぐるみで行う取り組みによって、広く浸透するのです。

「自治体の中には、堆肥化設備の補助金制度をつくったり、講習会を開いたりしているところもあります。そうした情報に耳を傾け、まずは家庭で行える食品ロス削減に取り組んでみる。ごみを細かく分別したり、コンポストを使って堆肥化させたりすることは多少の労力が必要ですが、一度、その習慣が根付いてしまえば、持続させるのはそれほど苦ではありません。そして、その習慣がやがて生ごみに対する意識を変え、環境に優しい社会へとつながるのです」

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現在、生ごみ処理の約9割を占めているのは、地域ごとに集積して焼却処理を行う方法です。日本では、水を含んだ生ごみを燃やすという“いびつ”な構造が長年常識になっているのです。しかし、浅利さんによると、この常識を変えるのに今はちょうどよい時期に入っているとのこと。

「全国にある焼却施設が老朽化し、これからごみの集約化を含めたごみ処理政策の刷新が図られるはずです。そこで、生ごみの堆肥化ができる施設も選択肢に入るのではないでしょうか。特に、2050年までに脱炭素社会を目指す*3のなら、焼却に頼らないごみ処理の優先度が上がるのは必然だと思います」

生ごみを良質な土に戻すコンポスト。生ごみを燃やしている今の常識から考えると、コンポストが主流になる社会は考えにくいのかもしれません。けれど、生ごみを堆肥にするのは、かつては誰もが行なっていた最も自然的なごみ処理方法です。食べ物の残りを土に還し、その土で栄養の高い食物をつくる。その循環ができている社会に戻れば、一人ひとりの食べ物に対する意識も変わっていくのではないでしょうか。

>>環境省「食ロスポータルサイト」

*3 2020年10月、菅内閣総理大臣が2050年までにカーボン・ニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを宣言。温室効果ガス排出量を削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量については、ほかの場所での排出削減・吸収等の購入や、それを実現する活動などを実施し、排出量を実質的にゼロにする取り組みを行うことを表明しました。