白山信仰の歴史が宿る「薬師山」の哲学

べにや無何有
薬師山の森の中に、無何有の玄関はある。

建築家「竹山聖」は、地球上に存在する、木・土・石・水・火・気を、幅広い教養と深い洞察力をもってフルに生かし、哲学的な作品として仕立てるのが得意である。彼の手がけた「強羅花壇」や「べにや無何有」には、ふつうの旅館にはない、東西文化の融合した「観念」が宿っている。
今回紹介する「べにや無何有」のある加賀・山代温泉は、奈良時代、行基が霊峰白山登錫の途上に発見した温泉。その守護のために自ら彫った薬師如来を石窟に安置したのが、霊峰山薬王院温泉寺の始まりだと語り継がれている。
その「薬王院温泉寺」は、白山五院の筆頭寺院であり、北陸密教の根本道場として多くの学僧や修験者たちの修行の場、かつ心身を癒す治療の場でもあった。
現在「無何有」の立っている温泉を望む高台は、かつて温泉寺の寺領であり「薬師山」と呼ばれていた。赤松や楓、山桜などが茂る自然に囲まれたこの地の生い立ちと環境を、竹山聖が見逃すわけはない。

べにや無何有
土間のラウンジには、薬師山の風が吹き抜け、緑が香る。
宿の名となった「無何有」とは、荘子の好んだ言葉で、「何もないこと、無為であること」。「部屋はからっぽなほど光は満ち、何もないところにこそ、とらわれない自由な心が宿る」。そんな思いから「無何有」という宿は生まれた。
深い森の中のエントランスを入ると、薪ストーヴの置かれた土間のラウンジ。正面にはまるで額のような窓。そこには、薬師山の季節の自然の色そのものを映し出すようになっている。この時点から、薬師山の気に触れ、邪念が治癒されていくことになるのである。
エレベーターで上階に上がると、竹山聖の真骨頂ともいえる、驚きの部屋が現れる。
「方林円庭」。