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韓国の天然記念物である珍島犬ペックの物語

世に名犬の物語は数々存在しますが、韓国で実際にあった話を基に作られた物語が本となり、この度日本でも発刊。静かな話題を呼んでいます。

大塚 良重

執筆者:大塚 良重

犬ガイド

日本のハチ公、イギリスのボビー、アメリカのバルト…と、世にその名を残す犬達は数々いますが、韓国にも多くの人の心を打った犬がいました。その名は『ペック』、珍島(チンド)犬の女のコです。

ペックの実話を基に書かれた児童書が本国で出版され、ロングセラーとなっています。その本が日本でも『帰ってきた珍島犬ペック』(現文メディア)として今年10月に発刊され、静かな話題を呼んでいます。

韓国で天然記念物指定を受けている珍島犬

珍島犬とは、韓国の珍島という島を主たる生息地とする韓国土着の猟犬です。余談ですが、珍島は近くにある芽島との間に、毎年5月頃になると長さ2.8kmにわたる砂洲が1時間ほど現れることで知られているところ(これを“海割れ”と呼んでいる)。この“島”という環境にあったからこそ、長きにわたってその純粋性が高く保たれたのでしょう。地元の人達にはとても大切にされ、韓国を代表する犬として貴重視されているそうです。

その風貌は、日本の紀州犬や四国犬、北海道犬などを彷彿とさせ、標準体高も50cm前後とほぼ同じくらいです。和犬の心情には一犬一主というものがありますが、珍島犬にも家族にだけ愛情を注ぐようなところがあるようです。沈着冷静、しかし事あらば勇猛果敢な犬に変身するという性質も伺え、やはり和犬に通じるところを感じます。犬らしい犬、といったところでしょうか。

長らく自国以外でその姿を見ることはほとんどありませんでしたが、2005年にはイギリスのケネル・クラブに登録がなされ、現在ではFCI公認犬種の仲間入りをしています。

“大好きな人に会いたい”、その想いが300kmを走らせる

ペックは珍島で優しいおばあさんと、その孫娘と一緒に幸せに暮らしていました。しかし、生活苦からおばあさんの息子の手によってペックは売られてしまうのです。新しい飼い主となったのは、大田(テジョン)という珍島からは300kmも離れたところに住む裕福な一家でした。そこでは純粋な珍島犬であるということ、そして犬としての資質を高く評価され、たいへん可愛がられるのですが、ペックの心の中にはいつもおばあさんと孫娘の姿がありました。

ペックは懐かしい海の香りを目指して旅立ちます、自分の本当の家族のもとへと。途中では、優しい人間、悪魔のようにも思える人間、意地悪な犬、人間を憎む犬、心を分かち合える犬……いろいろな出会いと別れがあり、時に気持ちが萎えながらも旅の歩を進めます。

シチュエーションとしてはよくあるものです。そして、これは子供向けの児童書です。しかし、「私はその日、初めて、自分たち、犬の運命について考えました。本当に哀れな犬の運命……」というくだりなど、人間によって犬達の運命が大きく変わってしまうことを改めて切実に考えさせられます。
韓国の地図
珍島犬ペックは元の飼い主家族に会いたい一心で、300kmの距離を7ヶ月かけて戻って来た。
次のページでは、“人間とは不思議なもの”。
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