ボーデン湖畔で過ごす犬たちの休日
次に訪れたのはボーデン湖畔の町、コンスタンツ。スイスとの国境に近いライン川沿いの町です。「花の島」として知られるマイナウ島や、ロマンチックな古城のあるメールスブルグへの旅の拠点としても人気があります。
泊まったのは船着き場に近い、けっこう由緒あるホテルでしたが、ここではエレベータから突然ドーベルマンが降りてきたりして度肝を抜かれました。どうやら古い修道院だか教会だかを改装して営業しているホテルらしいのですが、こんな老舗ホテルでも大型犬が宿泊できるのかと感動してしまいました。
このときの体験は、のちにアッシュを連れてヨーロッパに行く大きなきっかけとなりましたね。それにしてもあのドーベルマンは、お行儀がよかった! エレベーターに新しい客が乗り込んできても、われ関せずと涼しい顔をしてました。
コンスタンツからはフェリーが15分おきに出ていて、わたしたちもこれでメールスブルグに渡りました。地下道を抜けてマルクト広場に出ると、ここからは小さな土産物屋やカフェ、ホテル、レストランなどが軒を連ねていて、ウィンドーショッピングが楽しめます。小さな木彫りの犬のオブジェなどもあり、思わずミニシュナの置物を買ってしまいました。
三体ともみんなお顔が違うでしょ! |
これが定番、ヨーロッパ流! |
ストレスのない環境づくりが先決?
それにしても、学ぶべきは彼らのマナーの入れ方と社会化の方法ですね。横から見ているぶんにはまったくの自然体で、きびしいしつけや小難しい理論に基づいたトレーニングをやっているようには見えません。きっとそうした社会化は、生後半年以内にきっちり終えているのでしょうし、日本のように生後1カ月も経たないうちに母犬の元から離されて市場に出されることはないわけですから、しつけも楽に入るのでしょう。
それにふだんの日常生活においても、かれらが大きなストレスを感じるような環境は存在しないのかも。広い庭、通風のよい自然素材の大きな家、8時間以上家を空けず定時には帰宅する飼い主……。こうした面から今の日本を見てみると、日本で人と犬が幸せに暮らせる環境が生まれるためには、犬の繁殖から飼い方にいたるまで、大きなリノベーションが必要な気がします。
95年の旅では気づきませんでしたが、アッシュと行った99年には、公園や町の小さな広場などにバスストップのようなポールが立っていて、そこには犬のウ○チ袋が備えられているのをよく見かけました。これなどは行政サービスの一つだと思いますが、こうした施設が生まれるためには、やはり正常な繁殖・流通が当たり前になり、みんなが自然な形で犬との共生を受け入れられるようにしていくことが大切なのだと思います。
都心で飼える犬とそうではない犬
旅の最後は、ドイツ最高峰の山々が連なるガルミッシュ・パルテンキルヘン。すぐ隣はオーストリアというアルペン街道沿いの町です。ここではエックバウアー山という1200級の山にケーブルカーで登り、歩いて降りてくるというルーズな登山を楽しみましたが、この山の頂上には小さな牧場があり、そこでは放牧された牛を牧羊犬ならぬ牛追い犬がいて、牛たちの群れを管理するみごとな技を見せてくれました。
これは観光客相手のショーではなく、紛れもない本物。かれはきっとここで生まれ育ち、何世代にもわたって牛を追い続けてきた一族の誇り高き一頭なのだと思います。遠くにアルプスの山々を望み、吹き抜ける風の中で牛を追いながら悠々と暮らす。こんな環境にある犬たちを、日本の都心のマンションに連れてきてどうする? 思わずそう言いたくなってしまいます。かれらの本当の姿を見たら、安易にペットショップで牧羊犬は買えないように思いました。
山歩きで出会ったダックスフンド
山を歩いて下る途中の道々でもいろんな犬たちに出会いました。なかにはダックスフンドやミニチュアピンシャーなどの小型・中型犬も…。ドイツの人たちは、こうした愛玩犬を平気で山歩きに連れてくるんですね。これはアッシュとイタリアのドロミテ渓谷を歩いた時にも体験したことですが、こんな危険な崖のある場所にまで犬が!と思うようなこともけっこうありました。どこでも愛犬を連れていくという人は、今は日本でもかなり増えてきましたが、95年当時はまだまだ珍しく、このエックバウアーで愛犬連れのハイカーたちに出会って、ああ、わたしたちもアッシュを連れてきてやればよかったね、と何度も口にしたことを覚えています。
ブザンソンのドッグショー会場で |
「犬はわたしの生きがいであり、大切なパートナー。だからどこに行くにも一緒が当たり前。フランスでもドイツでもスイスでも、愛犬家の気持ちは一緒だと思うわ。そんな人たちがたくさんいれば、社会の方が自然にそれを受け入れるようになっていくものよ」
どこに行くにも愛犬と一緒、今それがようやく日本でも可能になりつつありますが、この流れを途切れさせることなく、ヨーロッパのような本物の共生社会づくりに向けて早めに一歩を踏み出したいものです。
■パリで出会った素敵な犬たち