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if--もしも愛犬が痴呆になったら

日本臨床獣医学フォーラムの年次大会(第4回)に行ってきました。興味深い発表はいくつもあったのですが、その中から内野富弥先生の痴呆犬のケアについてのお話を紹介しましょう。

執筆者:坂本 光里

高齢化する犬たちの今後を考えるとき
避けて通れないのが「痴呆犬のケア」をどうするか




あなたの愛犬が、もし痴呆になったら?
ふだんはなかなか考えてもみないテーマですよね。かくいうわたしも、うちのアッシュやハービーが老犬になってぼけて、わたしの顔すらわからなくなったときのことなど想像もできませんでした。だけど、犬の寿命は1年が人間の4年ぶん。9歳のアッシュはすでに50代をとうに越えている勘定になります。
けして避けては通れない話なんです。そこで今回は、日本臨床獣医学フォーラムの年次大会で動物エムイーリサーチセンターの内野富弥先生が講義をされた「老齢動物の看護---特に痴呆犬の日常管理について」の中から、そのハイライトをご紹介することにしましょう。

内野先生によれば、痴呆になるもっとも多い犬種は柴犬。つぎが日本犬の雑種とのことで、洋犬は比較的少ないようでした(だけど残念ながらまったくないわけではありません)。老齢犬の治療とケアを専門的に行ってこられた先生の話では、犬の高齢化とともに痴呆は徐々に増えてきており、その数は90年代の終わりから飛躍的に伸びてきているそうです。そしてまた、高齢犬の飼い主には高齢者の方が多く、そのケアにかかる負担はハンパではありません。だからこそ、少し早すぎるかなというぐらい早めの心構えや対応が必要というわけです。

痴呆の犬の「特徴」はつぎのとおり。
1 単調な声で吠える
抑揚のない鳴き方は人間にはかなり耳障り周辺から苦情が出る
2 前にのみトボトボと歩く
バックできる犬はまだまだ大丈夫、バックは高度な行動
3 狭い場所に入りたがる
壁の隙間や廊下の隅、机の下などにもぐりこみ出られなくなる
4 同じ場所で旋回する
グルグルまわる、ただし左回りは脳腫瘍の疑いが濃い
5 異常な姿勢で寝る
ひっくり返ってアタマを下にして寝たりする、かなり無理な姿勢
6 自分の名前も飼い主の顔もわからない
呼ばれても無反応、飼い主が来ても喜ばない
7 よく寝て、よく食べる
ただし食べてもやせてくる、下痢もしない(自律神経が異常)
8 夜中に起き出して吠える
飼い主が何をしても制止できない
9 直角のコーナーで方向転換ができない
首をちょっと曲げるだけの動作ができなくなる


これらのほか、犬に特有なゆたかな感情表現もまったく見られなくなるそうです。そして「習得してきたことの消失」、つまりそれまでに教えてきたしつけやコマンドはすべてきれいに忘れ去ってしまうわけです。しかしながら、その半面、人間の場合にはけっこう深刻な垂れ流しはほとんどないとか。
内野先生によれば、野生に近い動物である犬には、外敵から身を守るためニオイを残さないのと、自分の寝床は汚したくないという本能だけは残るということでした。あと、目や耳がきかなくなっても、嗅覚だけは最後まで生きているケースが多いそうです。

それでは、こうした痴呆の症状が出てきたらどうするか?
それについてはつぎのよ うなポイントがあげられていました。

1 多臓器疾患をチェック
肝・腎・甲状腺の病気、関節炎、ガンを併発していることがある
2 栄養失調をふせぐ
食べているようで飲み込んでいないケースがある
3 散歩に出してあげる
散歩ができればより長生きできる、草の中などを歩くと刺激になる
4 日光浴させる
生体時計を活性化する、ただし夏の日中の散歩は逆効果、寒さにも注意
5 室温を調整する
冬は人が暑いと感じるぐらいの温度(26~27c)に設定
6 スキンシップを大切に
頭から顔、首、背中とさわる手順を同じに
7 同じ人が管理する
いつも同じ飼い主が管理する、別の人がやるときは同じ手順で
8 犬との接触もこれまでどおりに
ぼけた犬に攻撃性はない、攻撃性があれば痴呆ではない
9 入院させない
場所替えしない、悪化するだけ、自宅でケアするのが一番
10 特製のケージをつくってあげる
コーナーのないケージで介護を(イラスト参照)
11 嫌がることをしない
無理に押さえつけたりすると暴れて事故のもとになる
12 床ずれは早めに処置する
寝たきりになると床ずれができる、ひどくなると死に至ることも


痴呆を治すクスリはありません。コントロールするだけだそうです。しかし近年、多 くの研究により、EPA、DHAなどの不飽和脂肪酸が人間のアルツハイマーには有効なこ とがわかってきました。
それは犬でも同じだそうです。しかし内野先生いわく、ドッ グフードにはEPAやDHAが入ってないものが多い(ドッグフードの主原料はなんといっ てもお肉ですから)。かつては柴犬をはじめ日本の犬たちは、人間の余り物を食べて 生きていましたが、その中にはけっこう煮干しなど魚類が入っていた。日本の犬たち は知らず知らずのうちにEPA、DHAをちゃんと摂取していたというわけです。
ところが 人間の残飯からドッグフードに切り替わったあたりから、お肉中心の生活になり、そ れに合わせて痴呆も少しずつ始まった。だからもう一度、EPAやDHAを積極的に与える ことが、痴呆の進行を止めボケ防止にもなるということです。

内野先生は、「メイベット」(明治製菓)という不飽和脂肪酸のサプリメントを使って、夜鳴きがなくなる、 顔に表情が戻ったなどの成果を得たと報告されていました。本当ならぜひ試してみたいものです。

やがてきっとくるその日のために、わたしたち飼い主ができること。それは、何があっ てもあわてず動じず、事実を事実として受け止めてしっかり対応すること。そのため には、こうした予備知識をふだんから仕入れて、転ばぬ先の杖を持っておくことだと 思いました。それが、たくさんの深い愛情をくれた愛犬への恩返しなんですものね。

痴呆犬に関する情報はこちらから
日本臨床獣医学フォーラムの公式サイト
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※ペットは、種類や体格(体重、サイズ、成長)などにより個体差があります。記事内容は全ての個体へ一様に当てはまるわけではありません。

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