11月3日から3日間、『動物を癒し動物に癒される』(チクサン出版)の著者、アレン・ショーン博士が日本にやって来ました。東洋医学を追求する獣医師たちの団体である獣医東洋医学研究会が行った「小動物臨床鍼灸セミナー」で講演するためです。
1日目は「針治療のメカニズム」「科学的な針治療」と題して、ツボとは何かにはじまり動物のツボの配置にいたるまでを駆け足で学習。2日目以降はじっさいに「針治療のテクニック」を獣医師たちに図示して説明していくという内容でした。専門的になりますが、筋骨格系疾患から脳血管障害、てんかん、脊椎障害、消化器疾患、免疫、呼吸器疾患、ガンまでを、具体的に針治療をほどこすツボ(経穴という)を示しながら概説していったわけです。
なかでも感動的だったのは、GV26と呼ばれる口と鼻の間にあるツボ(中国名は水溝)のこと。ショーン博士がある動物病院で鍼灸の講演を行ってこのツボの話をした直後に心停止した犬がかつぎこまれてきたというのです。その場に居合わせた獣医師たちは必死になって、強心剤を打ったり電気ショックを与えたりして、この犬を生き返らせようとしました。だけど犬はピクリともしません。そこで講義に出席していた獣医師たちから疑問と期待が相半ばする気持ちで犬をあずけられたショーン博士は、自分の信念にしたがってGV26に針を打つことになりました。
10分、20分と時間が過ぎ、博士があせりを感じはじめたとき、心電図に変化が現れます。まっすぐだった心電図が波を打ち、足をピクリと動かしたかと思うと犬はすっくと立ち上がったのです!周囲で一部始終を見守っていた獣医師たちはまさにその奇跡の立会人となりました。こうして博士の針治療とその効果は全米の知るところとなり、獣医界に東洋医学の有効性が認知されていったのです。現在アメリカには、ホリスティック獣医療協会なるものがあり、その会員数は600人(98年)。さらに、ホリスティック獣医療を正式に教えている大学が30校以上もあり、アメリカでは針治療のできる病院はどこも予約でいっぱいとのこと。なんともうらやましい話ではありませんか。
ところでショーン博士を招へいした獣医東洋医学研究会ですが、いまは鍼灸だけでなく“毒をもって毒を制す”ホメオパシーという治療法や、漢方、気功、アロマテラピー、マッサージやカイロプラクティックなどの研究に取り組んでいるそうです。早く、こうした治療法を確立させ広げていってほしいものですよね。
会の幹事の一人、池田眞三先生は私にこう言いました。
「動物には自然に持って生まれた治癒力があって、それを何かの事情で発揮できないから病気になる。だからその治癒力を高めていけばいいんです。そのためにはジャンルにこだわる必要はない。漢方だ西洋医学だって分ける必要はないんですね」