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鶴見線に乗ろう!【後編】国道駅と海水浴前(4ページ目)

東京湾の埋立地にある工場地帯を走る鶴見線は、東京からわずか30分の鶴見駅を起点とする路線。工場ばかりという独特の風景が広がる、鶴見線の不思議な世界を紹介する旅の後編。

執筆者:高橋 良算

海水浴前駅跡で見たものは……

この駅のあった場所を確かめてみたいと思い、武蔵白石駅まで戻って下車した。

当時の地形図があれば、ある程度場所もはっきりわかるのだが、あいにくそういった資料が手元にない。そこで、国土地理院が提供する空中写真(1947年7月9日撮影)を見てみる。終戦の2年後、駅の廃止からは4年後の写真であるが、それほど変わっていないだろう。

竹之下橋
かつての運河にかかる竹之下橋。写真奥が海水浴前駅方向
南渡田運河と田辺運河がL字型に交わった角のところへ、内陸から運河か川のようなものが二条流れ込んでいるが、現在の写真や地図を見ると、この部分はすでに埋め立てられている。しかし、線路や並行する道路はほとんど形が変わっていないから、近くまで歩いて行けば何かわかるかもしれない。

かろうじて確保されている狭い歩道を行く。ダンプカーや大型トラックが、砂ぼこりをたてながら行き交っている。歩いている人などまったく見当たらず、いよいよ不審人物確定のようだ。

10分ほどで橋が見えてきた。二条あった流れの一方を渡る橋で、「竹之下橋」「昭和三十年三月竣功」とある。この橋の向こうに、渡船場があったのだ。橋の下をのぞき込むと、ほとんど水はなく、底の泥がむき出しになっている。水質があまりよくないのか、かすかな異臭が鼻をつく。

海水浴前駅
旧・海水浴前駅付近。痕跡は何も見当たらない
駅は、鶴見駅起点4.7kmのところにあった。隣の武蔵白石駅からは0.6kmの地点だから、そのキロ程から推察すると、おそらく橋を渡って100mくらい行ったあたりのはずだ。しかし、線路と道路の間に貨物線の高架下を利用した車庫があり、残念ながらその向こうは見ることができなかった。もっとも、見えたところで渡船場の面影などは跡形もないのだが。

わかってはいたものの、何となく虚しさを覚えて立ち尽くした。真夏を思わせる陽射しがアスファルトに照り返す。思わず天を仰ぐと、太陽に目が眩んだ。

その時、ここから海水浴に向かう人々の姿をはっきりと見た。大人も子どもも皆笑顔で、幸せに満ちていた。彼らは沖にある海水浴場で、のんびりと楽しい夏の一日を過ごしたことだろう。

それからわずか数年後、戦争が始まった。京浜工業地帯は、軍事上重要な地域となった。そんな時代の波にさらわれるかのごとく、海水浴前駅は消えた。




[関連ガイド記事]
鶴見線に乗ろう!【前編】大川支線~海芝浦

[関連サイト]
ディスカバリーかわさき~かわさき区の宝物~
川崎市川崎区のサイト内。当地の魅力を「宝物」としてわかりやすくかつ詳細にまとめてあり、必読。
生麦魚河岸通り
生麦魚介商組合による紹介。
■空中写真閲覧サービス(国土地理院)
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