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鶴見線に乗ろう!【後編】国道駅と海水浴前(2ページ目)

東京湾の埋立地にある工場地帯を走る鶴見線は、東京からわずか30分の鶴見駅を起点とする路線。工場ばかりという独特の風景が広がる、鶴見線の不思議な世界を紹介する旅の後編。

執筆者:高橋 良算

朝の生麦魚河岸通り、あるおばちゃんの証言

生麦魚河岸通り
国道駅裏にある生麦魚河岸通り
国道と反対側の通りは「生麦魚河岸通り」と名付けられている。その名のごとく、鮮魚を扱う店が軒を連ね、魚の匂いが漂う通りである。なぜこんなところに魚河岸通りかと思うが、元々このあたりは漁村で、江戸時代には幕府に魚を献上する村に指定されていたという。その頃は埋立地もなく、海がもっと近かったのだろう。

ちょうど朝の活気がある時間帯だ。市場などに共通の独特な雰囲気で、カメラを提げた部外者の私は浮いている。ぼんやりしていると何だか怒られそうな気がするから、遠巻きに様子をうかがいながらさっさと歩く。

その中の一軒に、お惣菜の看板を出している店があって足を止めた。すると中から「夕方の4時頃から売るから、その時にまた来てみてねー!」とおばちゃんの威勢の良い声がかかった。それをきっかけにちょっと立ち話をする。

鶴見川
通りの裏手には鶴見川が流れる
ここはおもに寿司屋などが魚を仕入れに来るところで(指定業者でなくとも購入できるそうだ)、朝の9時~10時くらいまでが忙しい時間帯とのこと。「20年くらい前まではねえ、今より店も多くてもっとにぎわってたんだけど」と、以前は同業者だったのであろう近所のシャッターが閉まった建物を指差しながら言った。

その頃は都心からもたくさん買い付けに来ていたが、スーパーや都心の市場に押されて、近頃はわざわざこんな遠くまで来なくなったのだという。このおばちゃん自身も、魚をかごに入れ、電車を乗り継いで新宿の初台まで納品に行っていたことがあるそうだ。

地域格差というのは例えば都市部と農村部といった比較で論じられることが多いが、都市の中にだって格差はあると思う。しかもここは、都市を大きく発展させた象徴ともいえる京浜工業地帯を背景にした場所だ。鶴見線は、そんな此岸と彼岸とを彷徨っているかのようにも見える。

国道駅
ひっそりとした国道駅ホーム
おばちゃんに、今度はもっと遅く来ます、と言って駅へ行きかけると、乗る予定だった電車が駅を出て行くのが見えた。鶴見線は意外と昼間の本数が少なく、次の電車は30分後である。

ホームには誰もいない。国道を走る車の音に混じって電車の音も聞こえる。きっと近くを走る京浜急行だろう。その音をつれてきた風が、カーブしたホームをするりと抜けていった。


いよいよ扇町駅で鶴見線全線を完乗。しかしまだ旅は終わらない…… >>
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