鉄道の駅なのに「国道」 |
前回は、極端に本数が少ない大川支線と海芝浦駅を紹介した。後編は、怪しい雰囲気の「国道駅」から旅を再開しよう。
時間が止まったような国道駅
国道駅改札の木製ラッチ |
ホームに降りた時点では何の変哲もない高架駅なのだが、改札への階段を下りて行くとたちまち状況は一変する。何しろ古い。改札口のラッチは木製である。タイムスリップという言葉が頭に浮かぶ。
高架下の通路は、昼間だというのに暗い。これで物音ひとつせず、通行人もいなかったら、相当に不気味だろう。工事をしているようで、ドリルか何かの音が反響している。
通路の両脇はテナント兼住居が並び、その一画には、その名も「国道下」という焼き鳥屋がある。国道に面した国道駅にある焼き鳥屋が国道下、と何だかややこしい。まだ朝だからやっていなかった。
海が近いからか、釣り船屋の看板も見える。手持ち無沙汰に立っていた工事の警備員に、今も住んでいる人はいるか聞いてみた。すると、何軒かは使っているようだが、住んでいるのか事務所なのかはわからない、という答えだった。
高架下に50年、古参住人の証言
50年前から時が止まったような薄暗い高架下 |
以前はここで果物屋を開いていたそうで、建物は戦争のころから変わっていないと言っていた。終戦直後には闇市も開かれたりして結構にぎわっていたけれど、時代の流れとともにさびれてしまった……というようなことも話してくれた。
話の途中で駅に電車が入ってくると、かなりの振動と音がした。ずいぶんうるさいんですね、と言うと「そんなの、もう慣れちゃったよ!」と明るく笑っていた。考えてみれば、ここに50年以上も住んでいればそれも当然だろう。
そんな話をしている間に、数本の電車が発着したようだった。そろそろ帰ります、とお礼を言ってホームへの階段を上がって行くと、「気をつけて」と言いながら私の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。
あの時のおばあさんはどうしているだろうと、家の前まで行って中をうかがってみたが、ガラス戸は閉まりひっそりとしていた。中に人がいるかどうかはわからなかった。
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