事件の概要(判決の認定による)
こうして被害者宅に至り、被害女性(当時23歳)に信用されたのに乗じて室内に上がり込み、被害女性が若くてかわいかったことから、強姦によってでも性行為をしたいという気持ちを抑えきれなくなり、被害女性のすきを見て背後から抱きついたところ、激しく抵抗されました。そこで元少年は、必死に抵抗する被害女性の首を両手で強く絞め続けて殺害したうえ、万一の蘇生(そせい)に備えて、布テープを用いて被害女性の両手首を緊縛したり鼻口部をふさいだりし、カッターナイフで下着を切り裂くなどして姦淫を遂げました。
この間、被害児(当時生後11ヶ月)が被害女性にすがりつくようにしてはげしく泣き続けていたのですが、元少年は全く意に介さず、それどころか、泣き声を付近住民が聞きつけて犯行が発覚することを恐れ、また、被害児が泣き止まないことにも腹を立て、被害児を床にたたきつけるなどした上、なおも泣きながら母親の遺体に這い寄ろうとする被害児の首にひもを巻いて締め付けて殺害しました。
死刑適用基準について
誰が聞いても残酷な事件であり、元少年に対する死刑判決は当然だと評価できるでしょうが、過去の裁判例を見ると、これまで、このようなケースでは死刑を回避し、無期懲役となることが多かったといえます。1983年に最高裁が示した死刑適用基準(永山基準)によれば、(1)犯罪の性質(2)犯行動機(3)犯行態様、特に殺害方法の執拗(しつよう)さ、残虐さ(4)結果の重大さ、殺害被害者数(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)犯行後の情状、をそれぞれ考察し、その刑事責任が極めて重大で、罪と罰の均衡や犯罪予防の観点からもやむを得ない場合に死刑が許されます。
この事件では、元少年の犯行時の年齢が18歳と1ヶ月であり、少年法51条1項によれば、18歳未満の少年には死刑を科すことができないと定めていること、最高裁の示す死刑適用基準でも、犯人の年齢が考慮すべき要素として挙げられていることからして、死刑を回避すべきで事案ではないかという点が争われました。