健康保険や国民健康保険で「海外療養費」は取り戻せる?
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支給額は日本の医療費の標準額をもとに算出します。 |
あまり知られてはいませんが、健康保険や国民健康保険などの加入者が海外滞在中に支払った医療費は、「海外療養費」としてその一部を請求できる制度があります。
海外療養費は、一般的な海外旅行保険ではカバーされない既往症や歯科治療も一定の条件下で給付対象になる他、民間の保険会社から保険金が給付された場合でも、その給付額とは関係なく請求できます。
現在日本では、何らかの医療保険に加入することが義務付けられれていますので、基本的には旅行や留学等で海外に出かける人すべてにこの制度は適用となります。
給付対象者
海外療養費は海外渡航者で、健康保険・国民健康保険等の資格を継続していて、要件に該当すれば支給されます(ただし、1年以上日本を離れることになれば、生活の本拠地が日本ではなくなるため、住民票を移さなくてはいけません。その際、国民健康保険の場合、管轄する市区町村に住所があることが資格要件のため、資格を喪失することになります。また、健康保険の場合、海外転勤の場合の資格得喪については、賃金支払い等の労務管理を日本、海外いずれで行うのか等によって変わってきますし、任意継続の制度もありますので、個々の事案によって変わってきます)。
治療費は、現地で全額支払い、帰国後申請する
海外滞在中に病気やケガをして、海外の医療機関で治療や投薬を受けた場合の医療費は、本人が一旦支払い、後日、管轄の健康保険組合に「療養費支給申請書」(被保険者本人の場合)または「家族療養費支給申請書」(被扶養者の場合)を提出することで請求できます。
日本の保険証が海外で使用できるわけではないので、全額自分で支払った後に請求手続きを取る必要があるなど、ある程度の手間はかかります。
海外療養費の請求期限
請求期限は、治療費を支払った日の翌日から起算して2年間。これから海外に出かける予定のある人は、万が一のためにぜひ覚えておきましょう。過去2年以内に海外の医療機関で治療を受けた人も、払い戻しが受けられるかどうか一度確認してみてはいかがでしょうか?
給付対象となる医療行為
海外療養費が給付されるのは、日本国内で保険診療として認められている医療行為(診察、薬剤または治療材料の支給、処置、手術など)のみ。つまり、 海外の治療に関しても、日本の保険診療の範囲内
(※)で療養費が給付されるというワケです。
また、出発前に既にかかっていた病気(高血圧症など)は対象になりますが、治療を目的に渡航した場合(心臓・肺などの臓器移植など)は対象外になります。
※国内において一般的な治療方法として認められていない処置や、保険が適用されない以下のようなものは対象となりません。
- 美容整形手術
- 健康保険適用外の材料を使用した歯の治療材料や歯列矯正
- 自然分娩及び産前/産後健診
- 人工授精などの不妊治療、性転換手術
- 交通事故やけんかなど第三者行為や不法行為に起因する病気やけが
- 差額ベッド代 など
支給額算出の方法
海外療養費は提出書類の審査を経て、給付金額が算定されるのですが、これは海外で支払った治療費をもとに算出されるのではなく、日本国内で治療を受けた場合に給付される金額を基準として決定した標準額によって算出されるものです。
例えば、海外で歯科治療を受け10万円かかったとします。しかし、これと同じような治療を日本で受けた場合の平均的な金額が2万円だった場合、この金額が標準額となるのです。そのため、差額である8万円は自己負担になります。
さらに、実際に支払った医療費(10万円、実費額/支給決定日の外国為替レートで円に換算)が標準額(2万円)よりも大きい場合は、標準額(2万円)から被保険者の一部負担金相当額(一般被保険者の場合は3割=6,000円)を控除した額(1万4000円)が支給額となります。
したがって、自己負担額は先の負担額8万円と合わせて、合計86,000円となります。
また、実費額が標準額(2万円)よりも小さい場合は、実費額(例えば1万円)から被保険者の一部負担金(一般被保険者の場合は3割=3,000円)相当額を控除した額(7,000円)が支給額です。
帰国後、申請に必要な書類
書類の不備などを理由に払い戻しが受けられないケースも出ているので、海外渡航の際には、あらかじめ管轄の組合や健康保険窓口に確認しておくといいでしょう。保険組合や市町村によっては、海外治療費支給申請書を英文と日本語表記で用意しているところもあるので、事前に入手しておくと便利です。
【現地で必要なこと】
現地では一旦、治療費全額を支払います。その際、帰国後の申請に必要となる書類に記入してもらいます。別途費用がかかることもありますが、その場合は申請者の負担となります。
▼海外の医療機関で記入してもらう書類
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診療内容明細書(Attending
Physician's Statement)
医療機関などが発行する診療内容の証明書
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領収明細書(Itemized receipt)
支払済みの医療費の内訳が分かる領収書
※月がまたがる場合は、1ヵ月分ごとに証明を受けること
【書類の入手先・提出先】
健康保険の場合 →社会保険事務所、または加入している健康保険組合
国民健康保険の場合 →住民票のある市区町村役所の担当窓口
【帰国後の手続き】
窓口でもらえる治療費支給申請書に記入し、上記の書類を添付して、払い戻しを請求します。規定に沿った内容であれば、後日払い戻し手続きが行われます。
書類が日本語以外で記入されている場合は、日本語の翻訳文(翻訳者の住所および氏名を記載) が必要となります。翻訳費用は申請者の負担。内容が正確であれば、自分が訳したものでもかまいません。