
多少収入が上がっても、それを上回る物価高騰と社会保険料アップ。生活が苦しいと感じている人は多い。一方で、いわゆる富裕層も格段に増えている。富裕層とは、簡単にいえば純金融資産を1億円以上保有している人のこと。この中には、なにげなく買った株式や投資信託の価格上昇によって、「いつの間にか富裕層」になっているケースもある。
共働きだが先行きは厳しい
結婚して15年、13歳と10歳の子がいるリサさん(46歳)。同い年の夫と共働きだが、「パワーなしカップルです」と笑う。これからどんどんかかる子どもたちの学費、双方の親の介護、自分たちの老後などを考えると、「時々どうにもならないーと叫びたくなる」こともあるそう。
「私の勤務先は中小企業ですが、借り上げ住宅に入っているのでそれだけはありがたいところです。でも定年後はもちろん出なくてはいけないから、それまでに住宅の見通しも立てておかないととは思っています」
時々夫と生活費や貯蓄の見直しをするのだが、最終的には「だからといって食費を切り詰めて子どもたちの健康に影響があるといけないし、せめて年に1度は近場でいいから家族旅行くらいはしたいよね」というところに落ち着くのだそう。
職場の後輩が億万長者に
「ただ、半年ほど前だったかな、夫がポツリと『前にうちに来たことのあるA君、覚えてる?』と言いだした。夫の7年ほど下の後輩ですが、そのA君がなんと億万長者になったのだとか。興味本位で株を買ったり少し投資していたりしたら、あっという間に資産を築いたそう。たまたま二人だけで飲む機会があり、酔ったA君がうっかりぽろっとしゃべったようです。夫はそれを聞いてかなりショックを受けたみたい」
A君は夫が目をかけて育ててきたのだが、仕事では今ひとつパッとしなかった。まじめなのだが気が利かない、仕事のゴールを設定して工程を考えるのが苦手など、これまでも夫は時々彼のことを愚痴ってきた。
ただ、性格がよくて誰もしたがらない仕事も手掛けてくれるので周りは重宝している。「もうちょっと頑張ればできるヤツだと思うんだけど」といつも夫は悔しそうだった。
「そんなA君が、1億どころか2億くらい持っていると知って、夫はがっくりきたみたいです。気持ちは分かるけど、A君はずっと独身だからお金も自由になるのだし、夫ががっくりしても仕方がないですよね」
慰めようもなかったが、「家庭があったら、そこまで富裕層にはなれなかったと思うよ」と夫と彼の違いを口にするしかなかった。
節約に励みだして
それ以来、夫は「塵も積もれば山となる」と常に言うようになった。まずは投資する元手を貯めようとしているらしい。
「なんだか急に『もったいない』が口癖になったんですよ。よくいえば素直、悪く言うと単純な人なので、やること言うことが極端で。子どもたちがちょっとスニーカーを引きずるように歩いただけで『底が減る! もったいないだろ』って。私が思わず笑ってしまったら、けっこう本気で不機嫌になっていましたね」
塵が山になるまで積むのは大変なこと。それより自分たちの生活を大事にしようとリサさんは夫に言った。だが夫は「少しでも貯めれば投資できる」と意気込んでいた。
「子どもたちも私も、夫に何か言われないよう、なんとなく夫を避けるようになっていきました。それがさらに夫を不機嫌にさせて……。もともと明るくて、どこにいてもムードメーカーの夫が無口になり、春頃は家庭の中の雰囲気が最悪でした」
やっぱり家族との時間を楽しみたい
梅雨時のことだった。夫は静かな食卓で、「夏休み、旅行しようか」と急に言い出した。子どもたちは黙りこくっている。夫は「今までごめん。嫌な思いをさせたね」と子どもたちに謝った。
「あとから聞いたら、夫の学生時代の友人が急病で亡くなったんですって。その人はマネーゲームが楽しくなってついに離婚までしたらしい。亡くなったあと、億という遺産が見つかったけど、子どもがいなかったので結局は親族だけが得をしたみたいで。『まあ、本人が楽しい人生だったのならそれでいいけど、オレはやっぱり家族と一緒の時間を楽しみたいとつくづく思った』と夫はしみじみ言いました。他人の影響を受けやすいところが夫のしょうもないところなんですが、まあ、元の夫に戻ってくれてよかったと思っています」
夏休みは例年通り、近場ではあったが、海も山もあるところで子どもたちは思い切りはしゃいだ3日間を過ごした。子どもたちの笑顔を見ながら、夫は「オレってダメなヤツだな」とポツリ。「分かっているからいいよ、そのままで」とリサさんは慰めにならない慰めの言葉をかけたという。







