パートナーと共に将来の夢を実現させたいが、不安もあります
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は45歳、男性会社員の方です。早期に退職して、パートナーと一緒にクレープ店を開きたいという希望があります。現在の仕事がきつく、このまま惰性で働き続ける生き方に疑問を感じていることも、その理由とのこと。ただし、開業への不安や、それをせずアルバイトによる生活の不安もあると言います。ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さんがアドバイスします。

■相談者
ぶらっどさん(仮名)
男性/会社員/45歳
東京都/持ち家・マンション
■家族構成
パートナー(49歳)と同居
■相談内容
現在は会社員ですが、数年の近い将来の夢として同性パートナー(パートナーシップ宣誓済)と一緒にクレープ屋を開きたいと考えています。また、新たに、仕事を辞めて仔犬を家族に迎え入れ、愛情を込めて育てたいと思っています。
パートナーとは、私の持ち家マンション(支払い済)に2人で住んでいて、生計は折半。月々の支払いは安く抑えることができます(データ支出は固定資産税以外、全て私の負担分)。
現在ある財産があれば当面は何もしなくても暮らせるとは思うのですが、不安もありますので、以下の点についてアドバイスをいただきたいです。なお、基本的に私の生活費は私自身の財産だけ(パートナーには頼らない)で考えています。
①退職後、クレープ屋を開店せず、適度に月5万円ほどのアルバイトをしながら暮らす場合、何歳まで現在の財産で暮らせるか。働かなかった場合はどうか。
②クレープ屋はキッチンカーで行う予定。整備投資の予算は400万円に、当座の運転資金は100万円。駐車場は実家を使用するため、駐車場料金は不要です。その場合、2人で現実的に生活できる売り上げは最低でもどれくらい必要か。
③私の母親(76歳)が他界して相続が発生した場合5000万円ほどが分配されると思うのですが、将来的にそれも入ると考えた場合、どの程度頑張って仕事したらいいのか、しなくてもよいのか。
④預金がまだあるので、投資にもう少し入れたほうがいいのか。NISAの成長投資枠に毎年240万円の満額を入れるために取っておいたほうがいいか。
やっと仕事を卒業した父が、これからというところで突然他界したのを目の当たりにしたのもあり、いつ死ぬか分からないし、このまま惰性で仕事をしていてよいのか(続けることがつらい)という思いが強くなりました。何か判断できる材料やアドバイス、ヒントをいただけたらありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
■家計収支データ
「ぶらっど」さんの家計収支データは図表のとおりです。

■家計収支データ補足
(1)退職と年金について
かなり仕事がつらいため、今年度内の退職希望。退職金は450万円ほど。年金は年額100万円ほど(最近のねんきん定期便)。
(2)独立開業について
準備や開業資金は相談内容のとおり。
なお、開業しない(まだ細かい部分まで詰めていないため)と判断した場合、月5万円程度のアルバイト(週2、3日勤務)をし、社会とのつながりを持ちながら、不足分を貯蓄などから取り崩す生活を考えている。ただし、アルバイトそのものをしない(できない)ケースでも否定できず、その場合、どうなると資産が底をつくかも知りたい。
(3)相続について
相続資産は1億円ほど。法定相続人は相談者を含めて2人(2分の1ずつ)。
(4)その他の金融商品について
払い込み済みの終身保険(解約時の返戻金は600万円を予定)あり。
■FP井戸美枝からの3つのアドバイス
アドバイス1:簡単ではないが、期限を決めて夢へトライを
アドバイス2:相続が確実なら老後資金には困らない
アドバイス3:生活費で資産を取り崩さないなら、投資は積極的に継続
アドバイス1:簡単ではないが、期限を決めて夢へトライを
ご質問の順番は前後しますが、まずは退職後にクレープ店を開店したケースを考えてみます。退職時期を今年度末、年齢はそのとき46歳とします。
退職時の保有資金は、貯蓄ペースはそのまま、退職金も全額貯蓄するなら、約5700万円(預金利息、投資商品の増減は考慮せず。以下同様)。そこから、開店のための準備資金と当座の運転資金で計500万円を差し引くと、残りは5200万円となります。
この独立開業によるご質問は「現実的に2人で生活できるための売り上げ」です。パートナーの方の生活費は不確定ですが、ぶらっどさんとほぼ同額とすると、かかる生活費は月30万円。ただし、ここに別途、それぞれに社会保険が発生します。これを加算(ざっと3万円ずつ)すると、クレープ店経営による必要経費を差し引いた月収として、少なくとも36万円が必要です。
では、どうすれば36万円の収入が得られるか。ここから先のアドバイスは専門外ですが、初めての開業が、特に競争が厳しい飲食業ならば、そう簡単ではないことは、FPの私でも想像できます。
クレープ店は原価率が低いと聞きます。人件費と場所代も、ぶらっどさんの場合は不要。それでも、仮に利益率が70%なら売り上げは月51万円程度、60%なら月60万円の売り上げが必要となります。
これを毎月、毎年、継続しなくてはいけません。そのためには人通りが多い場所、メニューが魅力的、SNSなどで話題になるといった要素があるでしょうか。
厳しい話になりましたが、それでも、開店したい思いがぶらっどさんがお持ちなら、トライされていいのでは。理由は、開業資金と運転資金の計500万円は借入ではなく自己資金であり、保有する金融資産から見て、余裕資金とも言えるからです。したがって、もしも途中で退いても、資金が「もったいなかった」と後悔される必要はないのでは、と私は思います。
ただし、ビジネスですから準備は不可欠。例えば、事前に、飲食店に詳しいビジネスコンサルタントや経験者にアドバイスをもらう。あるいは、実際にクレープ店で短期間働いてみてもいいと思います。
もう1つ、開業にあたっては、とりあえず、2年もしくは3年程度の営業期限を決めてはどうでしょうか。その時点で、一定の収入が見込めるようであれば、継続していく。アルバイトをしながら、副業として始めてみるのも、より継続するための方法の1つでしょう。
アドバイス2:相続が確実なら老後資金には困らない
次に、最初のご質問にある、最初から開業を諦めたケース。
その場合、ぶらっどさんは、月収5万円ほどのアルバイトを想定されています。その際、生活費が今と同じ月に約16万円(開業しない場合、設定する生活費は相談者のみ)とすると、それに社会保険料が加算して18万円。その他、年間の諸経費も考慮して、年間230万円とします。対して収入が年間60万円ですから、取り崩す額は170万円。
アルバイト期間を、公的年金受給の65歳になるまでとすると、それまでの19年間で取り崩す額は3230万円(国民年金保険料の支払いが60歳までとすると、その分を差し引く必要がありますが、今後の社会保険料の値上がりなどを考慮して、そのままとしました)。
つまり、65歳になった時点での金融資産=老後資金は2300万円ほど。合わせて、死亡保険の解約返戻金600万円をこのタイミングで受け取ったとします。一方、不定期支出なども加味して、2800万円とします。
65歳以降、フルリタイアとなり、生活費の原資は年金と、不足分は金融資産を取り崩すことになります。
年金受給額を年間手取り額で110万円(退職後の国民年金の加入により額面で月10万円として割り出しました)。対して、生活費は物価高もあり、不足分を年間120万円とすれば、23年間は赤字になりませんが、老後にリスクはあります。アルバイトの月収10万円程度に引き上げることが必要でしょうか。
ただし、この試算には相続分を含めていません。もし言われるとおり、相続額5000万円(相続税は考慮せず)なら、老後資金は7800万円。退職後、そのままフルリタイアになっても、老後資金で困ることはないはずです。
アドバイス3:生活費で資産を取り崩さないなら、投資は積極的に継続
では、想定外となった場合はどうでしょうか。
相続です。詳しい状況は分かりませんが、現状の相続分5000万円は、76歳のお母さまが現時点で保有されている金融資産から割り出した金額なのか。それとも、今後発生する可能性のある支出を差し引いた金額なのか。もし前者で、お母さまがある程度お元気なら、将来介護が必要になり、介護施設への入居となる可能性もあり、そうなれば金融資産は目減りするでしょう。
あくまで概算ですが、介護施設に入所しても、一般的なコストなら、相続額の目減り分は3000万~4000万円に抑えられるでしょう。その場合、いつリタイアされても老後資金はほぼ確保できると思います。
ともあれ、5000万円の相続分を、現時点でのマネープランに織り込まないことが必要でしょう。相続が発生するまでは、ないものと思い、発生してから再度、キャッシュフローを考えてみる。そのくらいの慎重さはあっていいと考えます。
最後に、投資について。言われるとおり、まだ貯蓄に余裕があります。NISAの成長投資枠の上限まで資金を投資に回していいと思います。また、それ以降、貯蓄を取り崩さない生活が続くようなら、NISAのつみたて投資枠も利用するなど、税制優遇を活用しながら、積極投資をされてもいいでしょう。
相談者「ぶらっど」さんから寄せられた感想
現実的にクレープ屋の開店について考えることができたのは、とても
母の相続を当てにして考えていましたが、
今まで大きな病気もないですし、
投資については消極的でしたが、
今回ご相談させていただいたことで、
※マネープランクリニックで相談したい方はこちらのリンクからご応募ください(相談はすべて無料になります)。
※あるじゃん編集部では「貯蓄達人」からのメッセージも募集中です。
教えてくれたのは……
井戸美枝さん

シニアライフ研究家、CFP®、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会 企業年金・個人年金部会委員歴任。国民年金基金連合会理事。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。『知らないと増えない、もらえない妻のお金新ルール』(講談社)『ゼロ活 お金を使い切り、豊かに生きる!』(扶桑社)『私の老後のお金大全』(日経BP社)など累計刊行96万部。最新の書籍『図解でわかる 定年前後にやるべきこと大全』(エクスナレッジ)も好評発売中。YouTubeチャンネル『All About マネー【プロと学ぶお金のキホン】』においても、シニアライフの知恵を動画内で解説。最新動画『【年金繰上げ繰下げどっちがおトク?】今さら聞けない家計のギモンにお答えします!』を発信中!
取材・文/清水京武







