
30年にわたり続く経済停滞、伸び悩む賃金の一方で実質増税が続くなかで、日本人はやり場のない不満を抱えています。それでいて、「なぜこうなっているのか」「なぜ変わらないのか」を知る人はどれほどいるでしょうか。
元内閣官房参与で数量政策学者・髙橋洋一氏は著書『60歳からの知っておくべき政治学』のなかで、日常の中で直面するモヤモヤの正体を知るために欠くことのできない「政治学のキホンのキ」を解説しています。今回は本書から一部抜粋し、日本の憲法が世界と比較して“改正しづらい”事実を紹介。
世界でも特異な日本の憲法
法律と同じく、憲法も時代に応じて見直されるべきものである。だが、日本では「憲法=絶対不変」といった印象が根強い。特に第9条(戦争放棄)の存在ゆえ、憲法改正という言葉自体が、まるで軍事化を意図しているかのような誤解を招く場合も少なくない。
しかし、世界に目を向ければ、憲法改正はむしろ日常的な制度運用の一部だ。戦後以降、2022年までの憲法改正回数を多い順に見ると、ドイツ67回、フランス27回、カナダ19回、イタリア19回、中国10回、韓国9回、米国6回と、主要国のほとんどが複数回改正を経験している。一方、日本の改正回数はゼロである。
日本の憲法改正手続きは、憲法第96条に定められている。それによれば、まず衆参両院の本会議において、総議員の3分の2以上の賛成で改正案を可決し、国民に提案(発議)する。次に、国会発議から
60日以後180日以内に「国民投票」を行い、有効投票の過半数の賛成があれば憲法改正が成立するという流れだ。
この「3分の2」という高い発議要件が、日本における改正の大きな障壁となっている。事実、2007 年まではこの手続きを具体化する法律も整備されておらず、96条が事実上機能不全に陥っていた。第一次安倍政権が同年、「国民投票法(日本国憲法の改正手続きに関する法律)」を成立させ、ようやく憲法96条の改正手続きが実務に乗る環境を整えた。
さらに自民党は、憲法改正へのハードルを下げるため、発議要件を「3分の2から過半数に引き下げる」ことも検討した。これは憲法改正の入り口を広げるための試みだったが、憲法そのものの改正要件を変えるには、やはり96条の手続きを踏まねばならず、議論は未決着のままだ。
世界と比較して憲法改正がしにくい日本
世界各国の憲法改正手続きを筆者が考えた「改正難易度」という指標で比較すると、日本は最も高く、改正がしにくい国とされている。この指数は、「議会における表決の厳しさ(3分の2などの要件)」「国民投票の有無」「連邦国家の場合、州の承認要件」という3要素で構成される。その指標では、日本0.56、韓国0.56、フランス0.53、オーストラリア0.50、米国0.45、カナダ0.39、ドイツ0.22、中国0.22、英国0.17となっている。
このように、日本の憲法は国際的に見ても最も改正が困難な部類に属している。「最高法規であるがゆえに、厳格な改正要件が必要」という考えは一理あるが、それによって現代の社会課題に対応できない法体制を固定化してしまうことにもつながりかねない。
事実、諸外国では戦争や軍事以外にも、地方自治、議会制度、選挙制度など、統治機構に関わる部分の改正が多い。日本でも、そうした実務的な改正に対してタブー視を取り払うべきだという議論が強まっている。
髙橋 洋一(たかはし・よういち)プロフィール
1955年東京都生まれ。数量政策学者。嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(内閣総務官室)等を歴任。小泉内閣・第一次安倍内閣ではブレーンとして活躍。「霞が関埋蔵金」の公表や「ふるさと納税」「ねんきん定期便」などの政策を提案。2008年退官。菅義偉内閣では内閣官房参与を務めた。『さらば財務省!』(講談社)で第17回山本七平賞受賞。その他にも、著書、ベストセラー多数。YouTube「髙橋洋一チャンネル」の登録者数は132万人を超える。






