インバウンドが増え、スーツケースやキャリーケースの市場も急成長しているという。旅行でなくても、例えば仕事での書類や道具が多いときに小さなキャリーケースを引いて歩く人もいる。そうなれば、キャリーケースを巡るトラブルも増える。日常の中でキャリーケースで不快な思いをさせられたことがある人も多いのではないだろうか。
通路で足をひっかけて捻挫
「都内の地下道で、前の人が方向転換するときにキャリーケースに私がつまずいてしまって……。倒れ込んでおおごとになってしまいました」ミチコさん(38歳)は2年ほど前、それで足首を捻挫した。相手はそのまま去ってしまったため防犯カメラを確認してもらったが、人混みと角度の問題で確認できなかった。一応、警察には届けたが、結局、治療代も自腹を切るしかなかったという。
「相手に悪気があったわけではないと思うけど、キャリーケースの持ち方にも気を付けてもらいたいですよね。その人、体の横でケースと共に歩いていたわけではなく、体のかなり後ろで引っ張る形だった。これだと方向を変えたときにケースが振り回されるような形になって、後方を歩いていた私がつまずいたわけです」
ミチコさん自身もキャリーケースを持ち歩くことがあるので、なるべく体の横で移動させるようにしているという。
階段からケースが落ちてきて
駅のホームにあるエスカレーターを降りているとき、上からケースが降ってきたというカオルさん(40歳)。異音がしたので振り返ろうとしたところを直撃され、彼女は階段5段分くらいを転げ落ちた。「もっと上から落ちなくてすんだけど、顔から転んで頬骨を骨折、顔中、内出血して1週間ほど入院しました。私の周りも数人、転んだりして軽傷を負ったようです」
警察も入って、彼女は治療費全額と慰謝料をいくばくかもらったが、そんなことでは回復できないくらい心に傷を負った。
「電車に乗ろうとすると、あの日のことがよみがえる。怖くて電車の階段やエスカレーターを一人では利用できなくなり、夫に付き添ってもらって出社するありさま。自分でも情けないと思うけど、一人だと過呼吸を起こしてしまう」
そんな状態は1年近く続いたという。
上りのエスカレーターではキャリーケースは自分の前に、下りでは自分の後ろに置いて、いずれにしてもきちんとハンドルを握っているのが鉄則である。
「そうやって置いても、ハンドルを握らずにスマホをいじっている人、けっこう見かけるんですよね。でも何かあったときに、キャリーケースに体を押されて自分が転倒する危険もある。キャリーケースは武器になると思った方がいいと思っています」
3年たった今、ようやく恐怖感は癒えてきたが、あの日のことが時々フラッシュバックするそうだ。
自由席の真ん中にキャリーケースを置かれて
つい先日、新幹線の自由席に乗ったときのことですが、とマリエさん(46歳)は話し始めた。彼女は3人掛けの窓際に座った。次の駅で同世代の女性が大きなキャリーケースを引いて乗ってきた。「彼女はそのケースを真ん中の席に置いてテーブルを下げました。前の椅子寄りのところにできた空間に、キャリーハンドルを入れる形でケースを固定させたんです。そして真ん中の席にはもう1つ小ぶりのボストンバッグを置きました」
その女性は通路側に座り、おもむろにお弁当を食べ始めた。その様子を見ながら、疲れていたマリエさんは熟睡。起きたところでお手洗いに行こうと思ったのだが、通路側に座った女性の姿が見えない。
「テーブルを上げてケースを自由にしようかと思いましたが、他人のものですしね。勝手に動かすのも悪い気がして待っていたんですが、彼女はなかなか戻ってこない。そのうちこっちもお手洗いに行かないといけない状況になって……。悪いとは思ったけど、ケースをいったん通路に出して、自分が出てまたケースを真ん中席に戻して、とやっていたんですよ。ちょうどそこに彼女が戻ってきて『何してるんですか』と。いや、こんな大きなものがあるからトイレに行けなくてと言ったら、勝手に動かさないでくださいって」
荷物置き場の少ない現状も
トイレが迫っていたマリエさんは、とりあえず行ったが、どう考えても自分が怒られる筋合いじゃないと思い始めた。「トイレから帰ると、彼女、またいないんです。なんだかバカバカしくなって、ケースを動かして彼女の座席の前に置いておきました」
その後戻ってきた彼女は「まったくもう」とぶつぶつ言っていたが、マリエさんは寝たふりをし続けたという。
大きな荷物は特定の位置に置けるが、すでにふさがっていることも多い。指定席なら荷物置き場と共に予約できる場合もあるようだ。だが、圧倒的に座席数も荷物置き場も少ない。荷棚に置けば落ちてくる可能性もあるし、利用者にとってはもう少し便利になってほしいところではある。








