妻が社交的になっていく
学生時代から同級生と同棲し、27歳で妊娠が分かって婚姻届を出したヒロキさん(42歳)。上の子は15歳、下の子は13歳になる。「下の子が生まれたとき、妻は『さすがにもう無理』と仕事を辞めました。僕たちは二人とも地方出身者で、周りに手伝ってくれる親も親戚もいなかったので。僕も家事育児はしたつもりだけど、ちょうど仕事が忙しい時期で、どうしても妻への負担は大きくなった」
それでも3年ほど前から、妻はパートで仕事をするようになった。そのころから妻が少しずつ変わっていったという。
「今月、あなたは2回飲み会に行ってるよね、私も1回くらいはいいよね、と自己主張することが増えたんです。僕はいいことだと思っていた。互いに息抜きは必要だし、人と集まって話すことも大事だから。ただ、次第に妻の飲み会の回数が多くなっていって」
頻繁に出かけるようになった妻
昨年の秋以降は週に1度の割合で、妻の飲み会があった。そのたびにヒロキさんは残業分の仕事を持ち帰ったりしながらしのいできた。コロナ禍以降、家で仕事をすることに寛容になっている職場だが、それでも周りが残業している中、一人仕事を持ち帰ったり早朝出社したりするのは気がひけるところもある。「妻が変わったのはそれだけではありません。化粧が少し濃くなったし、着るものも華やかな色になった。きれいになったと言ったことがあるんですが、妻はウフッというこびたような笑みを浮かべた。それはなんだか嫌でしたね」
気になる男がいるのではないか、浮気しているのではないかと考えたが、そんなことを言った瞬間、学生時代から培ってきた信頼関係が壊れるような気がして言えずにいる。19歳から付き合い始めた二人には、すでに23年という歴史があるのだ。
「長く付き合っているのだから裏切るはずがない」
ヒロキさんは自分にそう言い聞かせていた。
朝帰りの妻につい怒ってしまった
ところが昨年12月、週末金曜日に妻が帰ってこない日があった。終電がなくなったころにはさすがにヒロキさんも心配になり、何度も連絡したが返信はなかった。「警察に連絡した方がいいだろうかと思い始めた午前6時、ようやく帰ってきました。『飲み過ぎて終電乗れなくて、始発になっちゃった』と笑っていましたが、酒が残っている感じでもないし、二日酔いにも見えなかった。そもそも妻は酒には弱い。だからこそつぶれて居酒屋で眠り込んだというんですが、そんなことはあるかなあと半信半疑でした」
2週間後、再び妻が朝帰りした。さすがのヒロキさんも「いったいどういうつもりなの?」と怒りの声を上げた。女性だからとか妻だからということではなく、家庭を持つ身として、連絡もせずに朝帰りというのはおかしいのではないかと指摘した。
「分かった。ごめんと妻は言いました。『独身のころ、あなたと同棲していたときも、私は常に“いい子”だったでしょ。最近、“いい子”に疲れちゃった』って。確かに妻は周りに気を遣い、誰からも好かれようと努力する人で、疲れたという言葉には実感がともなっていました。でも大人として親として、未成年の子どもがいるのだから、そこは考えてくれないと困る。自分自身のことを考えるのは、子どもたちが成人してからにしてほしいというのが僕の本音です。それは妻にも伝えました」
だが親の言うことを素直に聞いて、勉強も頑張って大学へ行き、進学後は彼と同棲して「同い年なのに、なんとなく保護者のような感じ」の彼に「圧」を感じていたと妻は吐露した。圧などかけたこともない、むしろ当時から彼女のわがままを聞いていたのは自分の方だとヒロキさんは驚いた。
こんなにも気持ちが離れていたのか
「互いの関係性についての感覚がまったく違っていた。そのことに初めて気づいて愕然としました。今さら、そんなことを知ってもどうしようもないんだけど、先への不安が増しました」ヒロキさんはいつも対等なパートナーだと思っていた。だから飲み会の数もなるべく平等になるようにしたし、家事育児で妻に負担をかけ過ぎないよう気も遣ってきた。だが妻の方は、彼に「親と同じような圧迫感」を抱いていたのだろう。
「いやあ、まいったなあと思いました。こんなに気持ちが離れていたのかと。あるいははなからボタンの掛け違いがあったのかもしれない。いずれにしても、妻の朝帰りについては話し合いが成立、今後はせめて連絡をするということでまとまりました。子どもたちがどう思うかもちゃんと考えてほしいと言っておきました。朝帰りの理由については彼女は『友達とみんなで会っている』というだけ。そこは今はつつかないようにしています」
今はまだ、決定的な亀裂を生みたくない。彼が願っているのはそれだけだそうだ。








