現役世代でこういう結果が出たのは興味深い。このままでいけば60代以降、孤独な老後が待っているとも思える。もちろん、アンケートでは「人とのつきあいが密接」の基準が分からないので、人とつきあって嫌な思いをするくらいなら一人の方がマシだという考え方も頷ける。ただ、つきあって嫌な思いをして、また別の人とつきあって楽しい思いをすることもあるのが人づきあい。最初から排除していたら、仲よくなれる人にも出会えない。
大人になってから友達ができない
「私も大人になってからの友達はいませんね。中学時代、高校時代の友人で、今もたまにやりとりしている人が数人いるだけ。そもそも“友達ってなに”というのもありますしね」そう言うのはヒロカさん(38歳)だ。独身で、彼氏いない歴3年。もはやこのまま独り身で生涯を終える覚悟はできていると笑った。
「私は地方の小さな町で育ったんです。外出するにも鍵をかけないような土地柄で、帰ると近所の人が一人でうちでお茶を飲んでいたりする。『ああ、お母さんは買い物に行ったよ』なんて言って、私にもお茶入れてくれたりして。誰の家だよって感じですよね。そういう土地柄だと、プライバシーなんてあってないようなもの。うちの兄が高校受験に失敗したとか、私が学校で人気者の男の子に片思いしているとか、そんな子どもの事情まで近所のみんなが知っている。なんだか嫌だなと思っていました」
大学入学を機に東京へ出てきて、親戚の家に下宿した。隣近所とはほとんど行き来がなく、あいさつをする程度。親戚が近所の人のうわさなどをするのも聞いたことがない。
東京暮らしが気楽でいい
「親戚は夫婦共働きでしたし、その家の子どもたちももう大きかったから、私は本当に間借りしているだけ。家族の団らんみたいなものもめったになかったから、家族仲が悪いのかと思っていたら、元旦だけはそろっていました。まあ、おせちもどきを食べたら、またそれぞれどこかに散っていきましたけど」年末年始は家族や親戚がやたらと集まる実家が恋しいような恋しくないようなと感じたヒロカさんだったが、その後、東京で就職するころになると、周りを気にせず自分の好きなように生きられるのが気楽になった。
「一人で飲食店に出入りしても誰も気にしないし、今住んでいるマンションなんて、隣の人の顔さえ知らない。でもエントランスで誰かに会えばあいさつくらいはする。人づきあいってこんなものでいいなと思います」
だが、ふと気づいたら友達はいなかった。
一人で完結でもいいかも
友達がいない。そのことに気づいても、ヒロカさんは特に動揺しなかった。時々食事に行く同僚はいるし、たまに顔を出すバーにも顔なじみがいる。それ以上の関係に踏みこもうと思ったことがないと我ながら再認識したのだという。「例えば一緒に旅に行くとか、人生の大事なことを相談するとか。そういうのは私、一人の方がいいなと思うんです。そもそも、自分のことをどうして誰かに相談するのかもよく分からない。人に意見を聞いたら迷うだけかもしれない。私の行動を根掘り葉掘り聞いてくる人も苦手だし。友達というのが、自分の人生にかなりコミットしてくる人という意味であれば、まったく必要ないなと思っています。そう言うと、冷たい人間だと思われるから公には言いませんけど」
残業もせずに早く帰れる日は、スーパーに寄って食材を購入、少しだけ凝った料理を作ったり作り置きをしたりする。
「煮魚を作ってみたり、きんぴらごぼうを作り置きしたり。そういう時間も楽しいし、そんなことをいちいち誰かに報告するのも面倒。機会があれば翌日、同僚にさらっと話すかもしれないけど。同僚が別のレシピを教えてくれたりすれば、それだけで言ってよかったと思います」
他人に期待をしない
そこまで言って、ヒロカさんは「あ、そうか」とつぶやいた。「私、他人に何の期待もしていないんですよ。基本的に一人で生きるものだと思っているから、人に優しくしてほしいとも思っていない。だからあっさり軽いつきあいの方が気楽なんです。まあ、たまに寂しいと思うこともあるけど、人づきあいでうっとうしいと不快になるよりはずっといいですしね」
人との関係に執着しないのかもしれない、だからなかなか恋もできないのかなとヒロカさんは言ったが、決して寂しそうには見えなかった。
<参考>
・「人々のつながりの実態把握に関するアンケート調査」(公益財団法人 生協総合研究所)








