愛知県民は大晦日にすき焼きを食べる!?
ところが、名古屋をはじめ愛知県では、「大晦日といえばすき焼き」という家庭が少なくありません。年末の精肉店に松阪牛や飛騨牛を求めて行列ができるのも、この地方の風物詩になっています。この食文化、どれくらい根付いているのでしょうか? 筆者がSNSを利用して愛知県民を対象にアンケートを取ってみました。結果は以下の通り。 【主なコメント】
1:「よく食べる」
「大晦日にしか食べません。家長が作るものとして代々受け継がれ、日ごろは台所に入らない祖父も作ってくれていました」(名古屋市・50代男性)
「理由を考えたことがないくらい、大晦日はすき焼き以外食べたことないです。おせちと同じ感覚です」(名古屋市・40代女性)
「すき焼きを食べ終わってからお鍋におそばを入れて年越しそばをいただくのが恒例でした」(刈谷市・40代女性)
「よく食べます。『たまにはさっぱり食べたい』と親が言ったときだけしゃぶしゃぶに変わった記憶があります」(日進市・50代女性)
「子どものころから大晦日は必ずすき焼きです。幼稚園児だったころ母に『肉なら焼き肉がいい』といっても、『大晦日はすき焼きに決まっとるの』と母から言われたことを覚えています。この時ばかりは味つけは父の仕事でした。今も大晦日は実家ですき焼きです」(尾張旭市・50代男性)
「大学生時代にスーパーでバイトしていて、大晦日にやたら牛肉が売れるので、初めて『大晦日にすき焼き』の習慣を意識しました。自分の家だけかと思っていたので、みんなやっているんだと驚きました。全国的な習慣ではないことにもっと驚きました」(西三河地方・女性)
2:「食べたことがある」
「名古屋では定番ぽいですね。肉嫌いの母がつくっていました」(名古屋市・50代女性)
3:「食べたことがない」
「大晦日に食べた記憶はありません。名古屋に50年住んでいますが、両親が三重県四日市出身、夫が静岡出身なので初めて知りました」(名古屋市・50代女性)
「よく食べる」「食べたことがある」を合わせると、およそ6割の人が大晦日にすき焼きを食べています。これは十分に広く根付いている食文化と言えるのではないでしょうか。コメントしてくれたのは40~50代の人が多く、加えて幼い頃からの習慣だったとの声も多かったことから、昭和の時代からある程度一般的だったこともうかがえます。
今回は他の地域の事情までは調査できなかったのですが、過去のテレビなどの報道内容を見ると、愛知県以外では「食べたことがない」という反応が多く、「大晦日にすき焼き」は決して広く浸透しているものではないと思われます。
ルーツは鶏肉の「ひきずり鍋」?
では、なぜ愛知県では「大晦日にすき焼き」を食べるのでしょうか?有力なのは「ひきずり鍋」ルーツ説です。ひきずり鍋とは鶏肉のすき焼きともいうべき愛知の郷土料理。鶏肉を鍋の底にひきずるようにして焼くことからこの名で呼ばれます。また、その年の厄を次の年まで引きずらない、という厄落としの意味もあるとの由来も伝えられます。 愛知県は元祖ブランド地鶏・名古屋コーチン発祥の地で、古くから養鶏が盛んな土地柄。そのため鶏肉が好まれ、すき焼きにも多く使われました。戦前くらいまでは庭で鶏を飼う家も少なくなく、年末にこれをしめてごちそうにしたともいわれます。先のアンケートで「家長が鍋奉行をする」という意見がいくつもあったのは、鶏をしめてさばくのが男性の役割だった時代の名残なのかもしれません。 日本の食生活が豊かになった高度経済成長期以降は、牛肉が鶏肉に取って代わられるようになり、ひきずり鍋はほとんど食べられることのない「幻の名古屋めし」になってしまいました。しかし、大晦日に家族で囲む鍋は牛肉メインのすき焼きとなって、ご当地の食文化として親しまれ続けてきたのでしょう。
すき焼き自体は全国で食べられるごちそう鍋。お正月前のわくわく感を盛り上げてくれ、大勢で囲める上に意外と手間いらず。愛知県以外の人も、今年の大晦日はみんなですき焼きをつつきながら新しい年を迎えてみてはいかがでしょうか?









