今年は一人のクリスマス
「クリスマスは二人で過ごしたこともあるけど、今年は一人。それもまた楽しいんじゃないかと思っています」つきあっている人がいても一人で過ごすこともあるかもしれない。そもそも一人でクリスマスを過ごすことに特別な思いはないとルミさん(36歳)は言う。だが、20代のころはそうではなかった。秋に恋人がいなかったら、クリスマスには即席でいいから「彼氏もどき」を作って過ごしていた。
「今思えば、どうしてあんなに人に依存していたのだろうと思います。恋もしていないのに、誰かいないと耐えられなかった。一人でいることが、他人からどう見られるか気になってたまらなかったんだと思う」
30歳目前で転職、30歳の誕生日だと気づいたのは家に仕事を持ち帰ろうと電車に乗っているときだった。最寄り駅について、「そうだ、自分で祝おう」と思った。食事をしていなかったので、食べたいものを考えた。焼肉だった。
「ひとり焼肉はハードルが高いと思い込んでいました。駅から自宅までの間にある焼肉屋に入って、『一人なんですけど』と遠慮がちに言ったら、『はい、お一人さまー』と普通に迎え入れられた。自分が食べたいものを頼んで、好きなように焼いて……。デザートまで満喫しました。軽く『今日、誕生日なんですよ』と言ったら、お店の人が別のデザートをプレゼントしてくれて。『ご近所ですか』と言うので、すぐそこですと言ったら、いつでも来てくださいねーって。それ以来、時々一人で行っています」
後輩に話したら……
ここ1年半ほどはつきあっている人がいたのだが、この夏、彼の過干渉に嫌気がさして別れてしまった。彼は「嫉妬したり干渉したりするのは愛情からなんだ」と切々と訴えたが、ルミさんにはそうは思えなかった。自分の自由を阻害されたくないと思ったそうだ。「去年は珍しく彼という存在の人とクリスマスを過ごしましたが、だからといって特別楽しかったとも思えないんですよ(笑)。彼の過干渉が嫌だったこともあって、彼には残業だと嘘をついて一人で映画を観に行ったりしたこともあります。基本的に一人での行動が好きなのと、特別な日を重視しないというところが私にはあるんだと思う」
誕生日やクリスマスは絶対に一人じゃ嫌だと思ったら、やはり無理しても恋人もどきを作りたくなるだろう。
「ただ、それを職場で話したら、後輩女性が『いやだー、先輩。一人でクリスマスを過ごす自分を許せるんですか!』と言われて。意味が分からなかったけど、彼女はそんなことになったら、自分で自分を許せないと言っていました」
一人でいることが=孤独、孤立と考える人は少なくない。どこに幸せの基準を置くかは人それぞれ。孤独であっても寂しいとは感じない人もいる。
年末年始もたぶん一人で
ルミさんは地方出身だが、ここ数年、帰省していない。「結婚しないの」という親の圧力はだいぶ弱くなってきたが、帰省してくる幼なじみや同級生からの言葉が心に刺さったことがあるからだ。「うちの実家の方は女性の結婚がわりと早いんです。私が30歳直前で転職したとき、幼なじみたちはもう一人か二人子どもがいて……。『自分のことしか考えてない生き方だ』とか『誰にももらってもらえないの? かわいそう』とか、責められたり憐れまれたりしたんです。どうしてそんなふうに言われなければならないんだろうと悲しくなって、それからほとんど帰省していなくて」
あとから離婚して実家に戻ってきた別の友人が、「私も離婚して帰ってきたとき、さんざん言われた。子連れで離婚なんてみっともないとか、子どもがかわいそうとか。みんなルミのことが羨ましいんだと思う。結婚生活がうまくいかなくなって離婚した私のことも羨ましいのかも」とこっそり言ってきた。
一人でいる人間だけがかわいそうなのか
「自由に生きることができないとフラストレーションがたまっているらしいです。とはいえ、彼女たちは家族がいて、誕生日もクリスマスも一人ではないわけですよね。私は一人でいるのが好きだけど、それでも家族がいる人を羨ましく思うこともある。互いにないものねだりなのかもしれない。でも私は、家族のいる人を責めたり憐れんだりはしませんよ。一人でいる人間だけが、なぜかかわいそうと言われてしまう。そういうイメージがあるのは仕方がないのかもしれないけど」最後は苦笑するしかなくなったとルミさん。家族で過ごす「特別な日」を、一人きりで過ごしている人が、世の中には確実にいる。だが、それは必ずしも不幸ではないということなのだろう。








