超高齢化社会で介護問題が深刻化する中、特に、離れて暮らす高齢の親を子どもが介護する場合は交通費の負担も大きくなります。国内では、介護のための帰省時に利用できる割引運賃を設定する航空会社もある中、それを廃止する動きも……。この「介護割引」のポイントや課題を、All About「飛行機の旅」ガイドのシカマアキが紹介します。
<目次>
「介護割引」運賃を導入している航空会社4社
国内には、介護で帰省する際に利用できる割引運賃を設定する航空会社が4社あります。その一方で、全日空(ANA)は2026年5月18日をもって、この運賃の新規予約・発券・搭乗を終了すると発表しました。「介護割引」の運賃をよく利用してきた人たちから「高齢化がさらに進む中、日本のフラッグシップキャリアが『介護割引』をなくすなんて」といった声も上がっているのです。
日本の航空会社で、いわゆる「介護割引」を導入しているのは次の4社です。
・日本航空(JAL)
・全日空(ANA)
・スターフライヤー
・ソラシドエア
なお、JALは「障がい者割引」「介護帰省割引」という名称を用いています。
「介護割引」の利用方法
JALの「介護帰省割引」の場合、要介護・要支援認定者と、その「2親等以内の親族」「配偶者」「配偶者の兄弟姉妹の配偶者」「子の配偶者の父母」が利用できます。介護する人と介護を必要とする人、それぞれの居住地の最寄りにある空港を結ぶ1路線に限り、JAL国内線全路線および、日本トランスオーシャン航空(JTA)、琉球エアコミューター(RAC)の全路線で利用可能です。これらの航空会社の対象路線内であれば、乗り継いで利用することもできます。
この運賃を利用するには、JALマイレージバンク(JMB)またはJALカードへの登録と、介護保険証や介護認定結果通知書、戸籍抄本などの必要書類の事前送付が必要です。他の3社も、利用条件や申込方法などはほぼ同様です。
「介護割引」はどれくらい安くなる?
介護割引の運賃は、JALとANAでは割引率が異なります。
JALの「介護帰省割引」の場合、各種運賃から10%割引。適用運賃は、普通運賃に相当する「フレックス」のほか、割引運賃の「セイバー」「スペシャルセイバー」「往復セイバー」「プロモーション」が対象となります。例えば東京-札幌(新千歳)間では、フレックス4万8340円→4万3506円、セイバー1万6220円→1万4598円、スペシャルセイバー1万3800円→1万2420円となります。
ANAの「介護割引運賃」(~2026年5月18日搭乗分)は、東京-札幌(新千歳)間は「通常期」2万5200円、「ピーク期」2万6800円と運賃が固定されています。なお、普通運賃(ANA FLEX)は通常期4万7520円、ピーク期5万380円となります。
運賃が固定(当日もその運賃で購入可能)のANAと比較すると、JALは普通運賃からの割引率は低いものの、他の割引運賃からの10%引きはお得になり、当日購入の場合に高額になるのがデメリットといえます。
飛行機は一般的に、前日または数日前までなら割安で買えることがある一方で搭乗当日は高額になります。旅行や出張とは異なり、介護は急きょ現地へ向かわなければならないことも多いため、帰る日があいまいなケースも少なくありません。飛行機移動は一度に数万円単位の出費になるため、ANAの「当日でも買える」介護割引のメリットは絶大です。
他の割引運賃と介護割引運賃を“併用”する人もいます。片道数千~1万円前後からある各種セール運賃や、当日購入できる「株主優待割引運賃」(普通運賃の50%引き)の利用度も高く、ANAの株主優待割引運賃(~2026年5月18日搭乗分)は東京-札幌(新千歳)間が通常期2万3760円、ピーク期2万5190円です。ただし株主優待券の入手が必要ですし、近年は座席数にも限りがあり満席でなくても「空席待ち」となるリスクもあります。
ANAの「介護割引運賃」終了に悲痛の声も……
ANAは2025年5月、今後の国内線運賃改定に合わせて「介護割引運賃」を終了することを発表しました。公式サイトには、
「2026年5月18日搭乗分までに適用される国内線運賃は、2026年5月18日をもちまして新規予約・発券・搭乗を終了いたします」
と掲載されており、その後の運賃一覧には介護に関する運賃がありません。

直後からSNSでは、
「急な介護帰省も少し安く買えていて助かったけど終わりなのね」
「これがなくなるのは経済的にかなり痛い」
「とてもありがたい制度だっただけに残念」
「かなり困るんですけどそれに変わる制度ってあるんだろうか?」
などの投稿が見られた。
要介護3の母親が札幌市の介護老人保健施設に入居しているという東京都の男性は、「行きはセール運賃、帰りはいつ帰れるかわからないので介護割引をよく使っています」と話し、ANAの「介護割引運賃」終了について「とても困る」と言います。
ANAの動きに対し、「今後も続いてほしい」という切実な声は、ほかにもいまだ多く見られます。一方のJALは、今のところ「介護割引」に関する発表はありません。
介護帰省でLCCを利用するメリット・デメリット
飛行機で安く移動できる手段としては、格安航空会社(LCC)もあります。実際、LCCの担当者から「地方に就航すると、意外とレジャーよりも介護需要が多かった」と聞いたことがあります。
鹿児島県の奄美大島出身者が多く住む兵庫県尼崎市の人は、「大阪(伊丹)から奄美へのJAL直行便は高いため、関空から成田を経由して奄美へ行くか、神戸から鹿児島経由のスカイマークで行きます」とも話していました。
遠距離介護は1年に何度も行き来しなければならないため、交通費が家族に重くのしかかります。LCCは「遅延や欠航が大手航空会社より多い」「キャンセルや変更で融通がききにくい」「成田空港や関西国際空港など発着する空港が遠くて不便だ」と感じる人もいます。当然ながら、LCCには介護割引の運賃はありません。
国内線はどこも赤字、でも「介護問題」は続く
日本の国内線事業は、どの航空会社も実質「赤字」(国土交通省「国内線を巡る現状」より)。ANAも例外ではなく、運賃の全面的な見直しを2026年5月に行うことはすでに発表されています。現状の介護割引運賃は、収益として割に合わないと判断したのだろうと考えられます。
しかしANAは、国内の主要航空会社の中でも社会全体をリードする立場にある企業のひとつです。「介護」問題がさらに深刻化すると予測される中で、介護当事者のニーズが高い割引運賃をあっさりなくしてもよいものでしょうか。
※参考
「国内線を巡る現状」(令和7年5月、国土交通省航空局)







