突然、離婚しようと言われて
「結婚して12年たって、夫から突然、離婚したいと言われました。あのときのことは決して忘れないと思う。子ども二人が10歳と7歳。これからもっと家族で楽しめると思っていた時期だったし、夫との関係も悪いとは思っていなかったから」アイコさん(44歳)は3年前をそう振り返る。夫とはもちろん、もう恋愛感情で結びついてはいなかったが、家族としての深い愛はあると信じていた。
「言われたとき、理由は何と尋ねたんです。ショックより先に理由が知りたかった。すると夫は『あなたを女性として愛せなくなったから』『今ある形を壊して一人の人間に戻りたいから』と。明快ですよね。それを聞いて、なんとなく納得はできるけど、同居しなくなったら子どもたちはどうなるのかと再度尋ねました。そうしたら『近くに住むからいつでも会える』って」
夫は離婚したいというより、この婚姻関係を継続したくないという言い方をした。つまりは結婚している状態が息苦しくなったのだろう。それはアイコさんには共感できなかったが、気持ちが理解できないわけでもなかった。
夫を憎んだり恨んだりはしない
「夫にとって、結婚しているメリットがなくなったんでしょう。私は職場でも『夫が待っているから早く帰りまーす』と適当にダシにして残業からの飲み会に行かなかったりするから、それなりにメリットはあったんですけどね。些細なことですが」ショックを受けたものの、心の底ではいつかこんな日がくるかもしれないと予測しているところもあった。結婚生活は互いが生き生きとしていないと意味がないと、アイコさん自身、夫に話したこともあったから。
「夫が息苦しくなったのなら、それは仕方のないこと。離婚するにあたって、夫を憎んだり恨んだりはしていません。むしろ、これからどういう関係を作っていこうかと話し合ったくらいです」
夫は自らの言葉で、子どもたちにも離婚について話した。アイコさんも、「あなたたちとお父さんの関係は変わらないから」とニコニコしながら伝えた。
夫は近くのマンションへと越していった。
子どもたちは行ったり来たり
徒歩3分ほどのマンションだから、子どもたちは平日でも休日でも父親のところへ行くことができる。週末、元夫は子どもたちを連れて遊びに出掛けることもある。「不思議なことに元夫の子どもたちへの接し方が激変したんですよ。以前はどことなく説教臭いというか父親風を吹かし過ぎなところがあったんですが、今はとてもフランクです。私には少し他人行儀になったけど、それが夫婦というより友達っぽくてかえっていいですね」
年に1度は家族4人で旅行にも出掛ける。以前は義務感で行っていた旅行だが、今は子どもたちが企画を立てて元夫とアイコさんが話し合って決めていく。
「夫にガールフレンドができたら紹介してと言ってあります。私もそうするから、と。でも夫は『あなたのボーイフレンドには会いたくない。嫉妬しそう』って。そんな軽口を叩くのも久しぶりだなと思います。私たち、もしかしたら結婚という日常生活が重くて押しつぶされそうになっていたのかもしれない」
アイコさんに残業が入ったときは、夫に連絡して子どもたちと一緒に夕食をとってもらう。夫が「今日、どうしても子どもたちに届けたいものがある」と言えば、アイコさんと子どもたちのいる自宅に寄ってもらうことも。
かつてないくらい気持ちが寄り添って
「つい先日も、元夫がこれから行っていいかと夜、電話をしてきたんです。子どもたちが食べたがっていた、予約必須のクッキーがたまたま手に入ったんですって。本当は必死に予約を入れたのかもしれませんが。子どもたちは大喜び。夕飯食べたのと聞いたら、まだだと。帰って何か食べるからいいよと元夫はいいましたけど、カップラーメンくらいでよければと。ついでに残っていた煮物を出したらうれしそうに食べていました」だからといって、また一緒に住もうという気にはならないとアイコさんは笑う。明らかに他人になった実感があるからこそ、気楽に心の内をさらけ出せるのだという。彼に対して、そこまでオープンな気持ちになったことは、恋人時代を考えてもなかったことだそうだ。
「出会って、徐々に近づいて恋人関係になって、結婚してもっと近くなって。でもなんだか少しずつ心が離れて固定した。そこで離婚したら、いまだかつてないくらい気持ちが寄り添っている。不思議ですよね。夫婦という関係ではなく、一人の人間同士として子どもを中に並んで立っている。そんな感じです」
アイコさんにとっても、居心地がいい関係だ。元夫婦というだけではくくれない、「気持ちのいい関係」を楽しんでいるという。








