食べるには困らない状況だったはずが……
16歳、13歳、12歳と男の子ばかり3人を育てているナツミさん(44歳)。夫は中堅企業の社員で、決して年収が高いわけではないが、東京郊外にある夫の実家で義母も含め6人家族で食べるには特に困らない状況だった。「子どもができてから私は仕事を辞めましたが、末っ子が3歳になったころからパート勤めを始めました。その間、義母が家にいて子どもたちの面倒を見てくれた。家のローンを抱えなくてすんだので、何とか暮らしてこられたんです」
子どもたちが小さいころは、まだ食費がそれほどかからなかった。だが、だんだんと食費の占める割合が大きくなっていく。義母と顔をつきあわせてメニューを考えたこともあった。子どもたちは3人ともサッカーが大好きで、上の二人は部活動に夢中だ。そうなると、ますますエンゲル係数が上がった。
うちが「貧乏だ」と感じた瞬間
「ここ何年も物価が上がっていますよね。来月から食品何十種類が値上がりですというニュースを聞くたびに頭を抱えていました。そこへきて昨年からのお米の件。お米が手に入りにくくなったときは本当に困った。子どもたちはやはりお米が好きだし、部活のときはおにぎりを持たせたりしていましたから。我が家にとって、お米は本当に必需品なんです」1日1升炊くことも珍しくないし、ときにはそれ以上のこともある。この状態は数年、続くだろう。備蓄米が出たときは朝早くから並んで買ったと彼女は言う。
「今年の新米が出れば、ようやく思い切り食べられると家族中で楽しみにしていたんですが、うちの近くのスーパーでも新米は5000円近い。とても買えません。家計を考えると、どうしても無理だと思ったとき、『うちは、貧乏な部類なんだな』と思いました。その後、義母が『どうしても孫たちに食べさせてやりたい』とわずかな年金から新米を買ってきてくれて……。子どもたちにも言い聞かせて、みんなで食べたけど、あとから夫と『米というなくてはならないものを買い控えるしかないというのは、貧しいということなのか、あるいはこの国がおかしいのか』と議論になってしまいました」
主食が買えない……これは本当に「おかしな」事態ではないのだろうか。
米しか主食にできない人も
「米が買えないから、毎日、パンかパスタかうどんか。そんな食生活よと言っていた友人がいました。うちだってそうしたい。でもうちの子たち、重度の小麦アレルギーなんです。だからお米は必須。乳製品にも若干のアレルギーがあるので、パンも米粉を使って家で作るようにしているし、とにかく米が食生活の中心なんですよね」アツコさん(43歳)の表情が曇る。10歳と5歳の娘たちはどちらもアレルギー体質だが、特に下の子の小麦アレルギーはかなり重いという。
「なかなかお米が買えなかったから、米粉のお菓子類は我慢させてきちゃったんですよ。新米が出たら、たくさんお菓子を作ってあげると約束したんですけどね……」
アツコさんもまた、「うちって貧乏なんだ」と痛感しているという。それは周りのママ友たちも同じ意見で、「うちだって買えないわよ。結局、少し値下がりした古米を買っている」という人が多いそう。
「牛肉を豚肉にして節約するなんていうのは、みんなやっていることだと思うけど、お米が買えないなんて、こんな切ない思いをするのは初めてです。小麦が食べられない子もたくさんいるんだということを分かってほしいと思いますね」
給料は上がっていないのに
主食の米が高騰すれば、お弁当や外食も値は上がっていく。全国に1万件もあるこども食堂も大変な思いをしていると聞く。米離れが進んでいるというが、それでも主食が米だという人は圧倒的に多いはず。年金暮らしの高齢者だって、新米くらい好きなだけ食べたいだろう。
「食材の価格はある程度、安定させてほしいですよね。人間の暮らしの基本ですから。それが安定しない上に、うちなんかは特に給料が上がっているわけでもない。生活自体がどんどん厳しくなっていく実感があります」
下の子が小学校に上がれば、アツコさんも外で働き始める予定だが、それまでは在宅でできる仕事を細々と続けていくしかない。
「新米……好きなだけ買いたいですね」
最後は仕方ないといった顔で笑った。








